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第一幕 邂逅 噂話

「『開かずの資料室』の扉が開いたらしい」


そんな感じに、俺こと宮前 ミヤマエ アキラが、妙な噂話を聞いたのは、高校二年のある初夏の昼休みのことだ。


「えっと…なんだそりゃ」


「だーかーらー、『開かずの資料室』の扉が開いたらしいんだって」


興奮気味に俺の目の前で語るのは、中学時代からの悪友、山崎 裕久ヤマサキ ヒロヒサである。


昔から噂話の類いが好きな奴ではあったが、どうやらまた新しい話を拾ってきたようだ。


「『開かずの資料室』の扉が開いたんなら、もう『開かず』じゃないじゃないか」


正直、どうでもいい話だから、適当に相手しながら昼飯を食べる。


しかし、裕久の奴はそんなことはお構い無しに、話を続けていく。


「だから大変なんだろ?


今まで何しても開かなかったらしい資料室の扉が、今さらになって開いたんだぜ?


『開かずの資料室』の話くらい知ってるよな」


もちろん知っている。


今やこの学園に通う生徒にとっては、常識みたいな話だ。


学園に幾つかある資料室の一つが、十年くらい前から開かなくなった、とかいう話だ。


その原因は、誰かがそこで死んだから当時の教員が封印した、とか、入った生徒が神隠しにあって以来同じことが無いように封印した、とか。


つまるところ、どこにでもある噂話。


とるに足りないフィクションの類いだと、俺は思っている。


「で、その『資料室』の扉が開いたとして…誰がそれを確かめたんだよ」


どうでもいい話はとっとと終わらせるに限る。


そう考えて、俺はわざと裕久の話が進むように質問を投げ掛けた。


「ああ。なんでも、ほら新任の先生がいるだろ。えっと…名前なんてったっけ?」


村上ムラカミ カオル先生か?」


「そう、それ」


村上 薫先生は、今年新任してきた先生である。


ちなみに担当教科は歴史。うちのクラスも担当している。


「あの先生、うちのクラスにも来てるぞ。覚えておけよ…」

「ま、いいじゃんいいじゃん。誰にでも、もの忘れはあるって」


担当の先生の名前を覚えていない失礼を、気にも止めることなく、裕久は話を続ける。


「あの先生って、すっごいドジだろ?」


確かにドジだ。


初授業の時に教壇でスッ転んでいたあの光景は、今でも俺をはじめとする生徒たちの脳裏に、クッキリと刻まれている。


「あの先生が、なんか転んで資料室に突っ込んだらしい。そしたらそこが、例の『開かずの資料室』だったそうだ」


それを聞いた俺の頭に、ふと疑問が浮かぶ。


「なあ…その資料室、薫先生が突っ込んだら開いたんだよな?じゃあ、もともと開いてた扉を薫先生が壊しただけじゃないのか?」


俺の言葉に、裕久は得意気な笑みを待ってましたとばかりに浮かべる。


「そう思うだろ?でもな、薫先生が扉を確認したところ、内側からこんなデカイ釘で打ち止めてあったらしい」


言いながら指先を広げて、釘の大きさを示す裕久。


なるほど。確かにデカイ。世に言う五寸釘ってやつだろうか。


裕久の指先が示す大きさは、普段俺が目にする釘の二倍くらいの大きさがあった。


「それにな、扉壊した薫先生が教頭に報告したら、教頭が『本当ですか!?』とか言って確認しにいったらしい」


それはただ、本当に壊してしまったのかを確認にいっただけじゃないのか。


そう言おうとした俺を裕久は手で制して、


「結論をいそぐなよ、晶。そこで終わればただの扉破壊事件だ。でもな、その後教頭は職員室で、こう漏らしていたそうだ。『開いてしまった』、と」


なかなかの語り口調だ。


気付けば俺は、昼飯を食べるのを中断して、奴の話に耳を傾けていた。


しかし、それはあくまで、


「噂話だろ?お前、それ誰に聞いたんだよ。普通、職員室での呟きなんて生徒が聞けるわけないだろ。そんなの…」


作り話だろ、と続けようとしたが、その前に裕久の言葉に割り込まれ、


「情報元は薫先生だ」


これ以上ない情報元が明かされた。ていうか、当事者が言いふらしていた。


「…!?それって言いふらしていいことなのかよ!」


「いや、なんか知らんが、この事は職員の間で箝口令がしかれているらしい」


これは何かある証拠だろう、と言う裕久の目には俺にとって有り難くない輝きが宿っている。


こんな目をした時のこいつが、決まって言い出すのは次の一言。


「と、いうわけで…調べに行こうぜ!晶!」


案の定、お決まりの文句で、俺が今までに断りきれたことのない裕久の調査同行依頼が出された。


それは今回も変わらず、放課後俺は裕久と共に、開いてしまった『開かずの資料室』探しの旅に出ることになった。


今思えば、この時裕久との約束を反古してでも帰宅を推し進めていれば、あんなことに巻き込まれずにすんだのかもしれない。

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