幕間 捕らわれの夜
〈ざまあないな…〉
私、深水 美景は心の中で自嘲する。
後輩たちを守ろうと、四人を相手に無茶をした私は、あっさりと敗北を喫した。
武器を失い、どうすることもできなかった私に、男たちは近づき、そして、
〈そこからの記憶がない…。ということは、気絶させられたのだろうな…〉
今いる場所から見えるのは、随分と寂れた木造建築の内装と、そこにたむろする二十人ばかりの男の姿だ。
更には、両手両足をきつく縛られ、猿轡を噛まされているため、動くことも、喋ることもままならない。
〈私はこれからどうなるんだろうか…〉
生かしてさらって来た、ということは命をとられることはないだろう。
と、すれば慰みものにされるか、人身売買の商品にされるか。
〈どちらにしろ、生きているとは言えないな〉
私は、そんな自分の行く末を嘲笑する。
まあ、これからどうなるにせよ、今できるのは、ここからの景色を眺めるだけだ。
男たちは、酒宴に夢中のようだった。
彼らの中に、一人として酒を飲まないものはおらず、皆上機嫌のようだ。
と、酒宴の席から一人の男が離れて、私に近づいてくる。
男は、縛られて床に転がされた私に近づくと、その品のない顔を近づけ、まるで品定めをするかのように、視線を全身に這わせた。
「頭ぁ…。この女、幾らくらいになりますかねぇ?」
その後、男が声をやるのは、首領格と思われる鎧の胴だけを着けた男。
その首領格の男は、酒を飲みながらこたえる。
「さあなぁ。だが、『筒衣衆』の、しかも上玉の女だ。平坂の領主に持っていけば、それなりの値がつくだろうよ」
やはり、私は売買の道具にされるようだ。
男たちの会話から推測される未来に、私の気分は沈んでゆく。
不意に、顎を引かれて私の顔は僅かに持ち上げられる。
それをなしたのは、最初に近づいてきた男。
「へへへっ…、頭ぁ…」
そこから先は、何となくだが予想できる。
「平坂の領主のとこに持ってく前に、ちょっとだけ楽しんじゃあ、だめですかね?」
案の定だ。
男の、私を見る視線は、既に獣のそれと何ら変わりはない。
ただ思い通りになるのも癪なので、ありったけの敵意を込めて、目の前の男を睨み返す。
「あん…なんだぁ?この女…」
直後、頬に走る強烈な痛み。
私の視線に気づいた男に、頬を殴られてようだ。
「調子のるんじゃねえぞ!てめえ、今の状況が判ってるんだろうな!?」
酒が入っていることもあって、男は激しい怒りを顕にし、更にその手を振り上げる。
「やめとけ…」
それを諫めたのは、首領格の男だった。
「あんまり手荒に扱うな…。傷物にしちまうと、値段が下がるかもしれねぇからな…。お前らも、手ぇ出すんじゃねえぞ」
首領格の男の言葉で、目の前の男はすごすごと引き下がる。
しかし、帰る時に私の頭を乱暴に放すことは忘れない。
男たちの酒宴はさらに続き、私はこれ以上見ていても、有益な情報は得られないと判断して、視界を閉じる。
考えるのは、学園のことと、仕事を任せてきた後輩たちのこと。
〈皆、無事に避難できたのだろうか…〉
結局、それを確認しない内に捕らえられ、どんな状況になっていたのか、私は知らない。
〈晶君たちは…うまく仕事を終えてくれたのだろうか…〉
彼のことだ。私以上に上手くことを運んだに違いない。
普段、絶対に口にはしないが、私は彼を信頼している。
今回も、私がいなくとも皆を導いてくれたことだろう。
〈彼女らには、少しだけ…悪いことをしてしまったな…〉
なぎなた部の後輩たちには、無様なところを見せてしまった。
私がさらわれたことで、トラウマになっていなければいいが。
そうしている間にも、夜は更けゆく。
私の未来は、未だ男たちの手の中に…