水底から来たれり
あ、先輩久しぶりっす。
近くまで来たって、まだあの会社ってか雑誌つぶれてないんすか。
ビ-ルとピーチオレは頼んだって?
後、枝豆と汲みだし豆腐、わかってますねぇ。
ピ-チオレとカシスオレとかあるとこ少ないっすもん。
カシスオレンジとかあるなら、同じ系統のリキュ-ルで出せばいいのに。
んじゃ、鯖の竜田揚げとポテトとコーラ頼んでいいっすか。
その後も適当に頼んである程度、揃っての話。
はいはい、で、何の話を、水に関する怖い不思議な話ね。
中学の頃の話だし、でも、今でもあるお話でいいっすか。
アタシは、弓月蒼子。
まぁ、サンホラ好きっぽい名前だけど、偶然。
名古屋の大学を出てそっちで就職して、だらだらと30歳ぐらいになった女だ。
その手の話に事欠かないってつくね。
染めた髪にちょっとぽっちゃり系で、本とTRPGとグルメが好きな独身女って書くとまぁ、オタク系女子で作れそうな会社員みたいな感じだ。
で、先輩は、あのムーと同じぐらい古いオカルト雑誌というか、実話系の怖い話不思議な話を売りにしてる雑誌の編集。
同じ大学の違う学部でサークルつながりだ。
ネタに困るとこうやって話を聞きに来るって感じ。
ライターになる気も拝み屋になる気もないけどね。
こうやってお題を振られれば話せるし、自己防衛ぐらいには何かができる系だ。
「みず、っすね。
この辺うまくつなげて欲しいんっすけど、地元って結構、特徴的な祭りあるとこあるじゃないっすか。
あの辺って、海系の博物館あるし、道の駅の意味で海の駅あるじゃないっすか。」
「まぁ、あるな
海水浴、春夏ギリ初秋ぐらいまでしか客いないだろうに、レストランとかコンビニとかベンチとトイレのスぺとかあるな。」
「そうっすそうっす。
後、写真ステイションとかある感じのあこ道沿いのあこ。」
「まぁ、珍しくあこら泳げるもんな、砂じゃなくて砂利だけど。」
「でも、そういうのか学校の遠足とか目的がないと行かないんすけど、夏休みのお盆前後、いとことか来たら、海水浴と博物館、水族館と遊園地はセットだったんすよ、あの頃。」
まぁ、小学生中学生ぐらいまではギリギリそういう感じじゃん?
墓参りがてら、虫取りしたり。
午前中の涼しいうちに宿題したりさ。
今はどうか知らんけど、あの頃は八月前半でも泳げてたし。
まぁ、平成らしい普通の小学生中学生してたんですわ。
今よりも涼しかったし、んで、花火大会の日だったか、海辺に花火をしに行ったか忘れたけど。
夜に、公衆トイレと水場、ちょっと高台になってる四阿、のとこに居たんす。
多分花火しに行ったんすけど、親とか親戚と少し離れた。
うん、涼みたかったしね。
で、座ったベンチになんか書いてあった。
切れかけの裸電球でも見えるぐらいに、書いてあったというか刻み込まれてた。
うん、当時でもそこそこ古いかな、一年は経ってる感じ。
『××さんと花子 LOVEloveちゅっちゅvvv』
『なんで、紀子と、』
『死ぬ 全部道連れにしてやる』
まぁ、うん、当時はわかんなかったよ。
でも、今思えば、花子さんが××さんと付き合ったけど、紀子さんと浮気されて自殺したって内容かなって。
××って、浮気男は庇ってないよ、読めなかったし、読めない方がいいと思う。
でさ、音が聞こえなくなった。
潮騒の音もだけど、いとこ達が「打ち上げ花火だ-」「え―、ねずみ花火しよう、先に。」とか聞こえてたのが一切聞こえなくなった。
あ、ううん、そうそう。
トイレとかいとこ側から登る階段と、逆方向に降りる階段がある感じのね。
高台って言っても私の胸かそれぐらいでそこまで高くないし。
ぴちょん、、、、、ぴちょん、、、、、
静かな中に、水音が響く。
何かが上がってくる音。
べちゃりとか、ずるぅっとか、そういう海から上がってきた何かが、四阿を上がってくる音だ。
頭を上げちゃいけない、見ちゃいけない。
そしたら、見てしまったら連れてかれる。
確実に、あの世ならいい。
その時でもね、思い出してなかったけど、後ろの子に『死んだら魂くれてやる』って言ってあったしね。
今より面子は細いよ、でも、人間一人にかっさわれる心配はしてなかった。
でも、海に引きずり込まれたら、多分、無理だ。
能力的に、相性は悪くない、ないけど、振り払えない。
ずる、、、、、、ぺた、ぴちょん、
だけど、連れてかれる、『絶対』に連れて行かれる。
顔をあげちゃいけない、絶対に。
でも、その時さ、数珠の類どころか塩も水も持ってなかったの。
塩か数珠なら、何とか水に対処できて済んだけど。
うん、うちの地元の宗派じゃ本当使わないけど、親の職場からひと箱持ち出したからね、清め塩。
どうしようか、うん、マジでどうしようかと思った。
『・・・縺。縺後√■縺後≧縲、、、、、∵匐菫。繧オ繝ウ縺倥c縺ェ縺�、■縲、メ繧ャ繧ヲ縲、メ繧ャ繧ヲ縲、メ繧ャ繧ヲ。』
首筋にも触られた。
視界の端に白いワンピだったものと黒髪が映る。
何を言ってるかわからなかったけどね、××さんじゃないってわかったみたい。
触られた首、赤いみみずばれになったけど、もちろんその時は親には誤魔化したよ。
『もう、ねむいぃ」ってさ。
「で、多分だけど、あれ、花子さんとしての意識はあったと思う。」
それで、アタシは話を締めくくった。
ん、もちろん、浮気は嫌だから放置はしなかったよ。
数年後、高校の時に行った時も、同じ気配がこびりついてたからね。
多分、祖父の従兄弟の孫とかぐらいに遠い人でも殺したんじゃないかな、その××さんの。
存在が強固になってた。
でもね、具体的な呪いの方法と探し方を文字に起こして、羊皮紙に刻み込んだのをそこに置いてきた。
うん、呪具だよねぇ
私の血は使ってない。
まぁ、その××さんが死ぬまでには殺せるんじゃない?
地元で就職なんて、地元がそこの子ぐらいだろうから。
本当、人間嫌い?
何をいまさら。
一応、日本酒と塩舐めといてください。
・弓月葵子
商業系を卒業して名古屋の事務職をしつつ、結婚する気配もないアラサ-。
酒飲み。
私から後ろの子をかなり差し引いた一般人。
一応、先輩を憎からず思ってる。
花子さんは、その四阿の建て替えで解き放たれてるのを知ってるがそれは口にしなかった。
・先輩
名無し。雑誌編集系。
葵子のことは気になってるが、思い切りの良さは怖いとは思ってる。
・花子さん
地味系の事務員。
いい金づる。
・××さん
割とクズ。
金をせびった。
・紀子さん
ケバイ事務員。
花子さんから金を引っ張る。
葵子が花子さんに襲われた時点で死亡済み。
100物語に投稿予定だったけど、テーマが合致したので、二時間で誰かのお話にしたもの。