この星では、戦わずに憧れることもある。
──14:05 第1課・管制ブース(戦術プレゼン対応)
通信が繋がる直前、オフィスに重たい沈黙が流れた。
芹沢珠希は、すでに社装スーツを起動済み。上半身のアクティブパーツが収束する音が、空気を切り裂くように響く。
「オペレート、問題ありません。全系統、グリーンです」
二ノ宮梓の声が、冷たくも正確に芹沢の耳へ届く。
その隣で、矢口慎吾がプレゼンログを再確認していた。
「芹沢、序盤で“攻めの柱”入れるぞ。こっちで調整済みや」
「了解。前線、出る」
芹沢は一言だけ答え、静かに視線を上げた。
プレゼンルームの大型スクリーンが切り替わる──接続完了。フェルナンド・インダストリー、現場責任者たちの顔が並ぶ。
「営業部・第一課より、資料説明に入ります」
口上と同時に、撃った。
──打ち出された初弾は、“過去事例の危機回避率”
防衛案件のプレゼンでは、まず“失敗しなかった証拠”が最強の一手。
その時点で、敵──いや、相手方のリアクションが一瞬だけ固まった。
二手目は“導入後の稼働効率の差異比較”
三手目は“投資リスクを超える実働ベースの利得指標”
矢口がつぶやいた。
「うっわ……フルスロットルや……」
その横で風巻程時は、インカム越しにすべてを見ていた。
まるで、嵐だった。言葉で、数字で、映像で、芹沢は“殴っていた”。
資料を撃つ。正面から、真っ向から。
多少の理屈の飛躍さえ、強引にねじ伏せるような力技。
だけど、そこに一本だけ、確かな“筋”が通っている。
──これが、芹沢さんのやり方。
言葉でも、数字でも、真正面からぶつかって、誰よりも前に立つ。
──その姿に、何度も救われた。
── 14:18 プレゼン終了
すべての送信が完了し、通信が遮断される。
圧倒的な戦い方に管制ブースの皆が惚れ惚れして言葉を失っていた。
しばらくの沈黙の後、インカムから二ノ宮の声。
「フェルナンド側、肯定的リアクション。質疑なし。終了です」
芹沢が、ふう、と息を吐いたのがわかった。
わずかに緊張がほどける。
その瞬間、風巻の胸に、何かが込み上げた。
「芹沢さん! ……すごいです!」
無意識に、言葉が飛び出していた。
自分でも驚くほどの声だった。
芹沢はインカム越しに、少し笑ったようだった。
「そう? ありがとう。……でも、次は、あなたの番。まだ早いかもしれないけど――そういう時って、来るのよ」
その言葉は、風巻の胸に静かに刺さり、じわじわと熱を灯していった。
まだ、自分には荷が重いと思っていた。
でも──「その時」が来たら、自分はその重さを背負うべきだ。
たとえ震えていても。