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10.靴の勇者は盗まれた?(後編)

「その靴がなくなったのは、あなた方のせいではりません」

 わたくしは急いでその場でパーティー用のハイヒールに変身してみせた。エドガーたち三人は、ひどく驚いた顔をして、わたくしを見ていた。


「わたくしが靴の勇者、シャンタル・チェスナです。わたくしがダミアンを残して、こうして城に戻ってきていたため、靴をなくしたと思わせてしまいました。お詫びいたします」

 わたくしは人の姿に戻ると、絹のドレスのスカートをつまみ、三人に向かってお辞儀をした。


「そうだったんですか……。いや、驚いた……」

「本当に申し訳ないことをしました」

「ダミアンが魔王に罰せられるんじゃないかと、気が気じゃなかった」

 エドガーはダミアンを守るように抱きしめた。ダミアンは心配そうにエドガーを見上げていた。


「おい、『グッズ』ではなく『靴』だったのか?」

 ガストンがバティストを見た。

「男の勇者が男の魔王に嫁いできたのでは?」

 バティストはわたくしとヴァランタンを見比べていた。


「大魔王ヴァランタンは私だ。ご店主、申し訳なかった。我が城の宝が尽きて、食糧を買う金がなかったため、勇者に質草になってもらうしかなかったのだ」

「勇者様ではなく、魔王様だったので!? いや、あの、勇者様が質入れされてきたのは初めてです」

 エドガーはひどく戸惑っていた。それも当然よね。預かった質草が勇者とか、なかなか理解が追いつかないわよね。


「我らはご店主のところへお詫びに伺うところだったのだ。昨日のご店主の言葉は、我らの心に響いた。あなたのような方を騙すようにして、食糧を調達させるわけにはいかない」

「そうなのです。わたくしたちは勇者パーティーです。偽物の宝を質入れするなど、正しいやり方ではありませんでした」

 エドガーたち三人は、わたくしとヴァランタンを見比べた。


「魔王様……、いや、大魔王様は、勇者パーティーのメンバーなので?」

 ガストンはヴァランタンを見た。


「そうだ。私は大魔王の身ながら、勇者の仲間になったのだ」

 ヴァランタンはうなずいた。


「つまり、勇者様がドラスの町を攻めて焼き尽くして、ご領主を捕らえている……?」

 バティストが怯えたような目をした。


「ドラスの町を攻めたのは、魔王デジレです。大魔王ヴァランタン様はデジレを追い払ってくださいました。わたくしはドラスの町が焼け落ちた夜、ようやくドラスの町に到着したのです」

「デジレなんて聞いたこともないぞ」

 バティストが不審そうな顔をした。


「どこだったか、洞窟に住んでいる魔王だったような……。冒険者ギルドに討伐依頼が何件か出されていたのを見たことがある」

「俺も商人ギルドのマスターの集会で聞いたことがある。森の館に住んでいて、死人の皮をかぶって近づいてくるんだったような……?」

 ガストンとエドガーが口々に言った。

 エドガーの腕の中で、ダミアンがきりりとした表情になった。


「おっ、どうした?」

 ダミアンが蓋でエドガーをなでなでした。


「ダミアン、魔王は俺なんかの宝物庫を襲って来たりしない。心配することないぞ」

 エドガーはあやすようにダミアンを揺らした。ダミアンはちょっと驚いたような顔をしてから、笑顔になった。


「すごく仲良しになったのですね」

 わたくしはエドガーとダミアンにほほ笑みかけた。


「魔王様、どうかエドガーの魅了を解いてやってください。こいつ、強盗団を捕らえてからずっとこの調子で、完全にイカレちまってる」

 ガストンが言ってから、バティストと共にヴァランタンに向かってひざまずいた。


「私も噛みつき宝箱も、魅了のスキルなど持っていない」

 二人がわたくしを見たので、わたくしも「わたくしは靴の勇者ですので、魅了はありませんわ」と言った。


「もしかして、俺って魔物使いだったんですかね? ダミアン、俺に『テイム』されちゃったのか? んー? どうだー? かわいいでちゅねー」

 だんだんエドガーのダミアンへのかわいがり方に遠慮がなくなってきていた。

 わたくしだってケルベロスをかわいがりたいのに、わたくしのケルベロスはずっと人型だ。


「ヴァランタン、わたくしもケルベロスをもふもふしたいですわ。かわいいでしゅね、かわいいかわいいでしゅね」

 わたくしは耐えられなくなって、人型のヴァランタンをもふもふした。この子の中身はケルベロス、この子はケルベロス……!


「やめろ! 私のスキルは『最強』だ。主人公補正やラッキーチートはあれど、魅了などなかったはずだ」

「魅了もあるんじゃない? いいなー、『最強』って。わたくしなんて『靴』よ。サイズ変更とかしかないわ」

 ヴァランタンはわたくしを突き放し、距離をとった。

 ガストンとバティストは立ち上がり、冷めた目でわたくしたちを見ていた。


「大魔王様はケルベロスなんですか? もふもふですね!」

「そうなの! 噛みつき宝箱もかわいいわよね! 表情豊かよね!」

「そうなんですよ! しかも強くてやさしいときた!」

 エドガーはダミアンを誇らしげに高い高いした。

 ダミアンは蓋を揺らして喜んでいた。


「俺はダミアンと生きていきます。ジフィルの町だとダミアンが魔物だとか言われて、人間にいじめられるかもしれません。俺がドラスの町を、人と魔物の共生の町として復興させてやりますよ!」

 エドガーは高らかに、まだ住んでもいなければ、自分の領地なわけでもない町の復興方針を宣言した。

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