8.辺境の民は資金難です(前編)
わたくしはシカガクカの森で、かなりの数の『いたずら小枝』を倒した。
レベルが四まで上がり、スキルポイントが六ポイントもらえた。
スキルポイントをすべて使った今では、『紳士靴』と『婦人靴』と『デザイン変更』と『サイズ変更』のスキルが使えるようになっていた。
……『靴』のスキル、すごくどうしようもない感じだよね。残念だけど、これは追放されるわって、自分でも思うわ……。
この四つがバトル用のスキルなのか、フィールド用のスキルなのかもわからない。
これで魔王を倒せると思った存在、出て来いって思うよね……。
どうしろっていうの……。
絶望しかないわ!
延々と『いたずら小枝』を倒していても、レベルがあまり上がらないし、『靴』のスキルを使う機会もない。
わたくしはヴァランタンと一緒に魔王城に戻った。
前はヴァランタンの封印で守られていた大広間に行くと、すぐに辺境伯が近づいてきた。
「ゴブリンたちのおかげで、瓦礫がほとんど片付いた」
辺境伯はヴァランタンの手を握り、お礼を言った。
ヴァランタンは辺境伯の二の腕を励ますように叩いて、笑いかけていた。
「こちらはシャンタル嬢が勇者として覚醒した」
「そうか。『靴』のスキルはどうだ?」
「すごいぞ」
まあ、そうよね……。たしかに、ある意味ではすごいわ。
「そうなのか!?」
「ああ、私も長く生きてきたが、この世にこんな使い道のわからないスキルがあったのかと思った……」
辺境伯が問うような視線を向けてきたので、わたくしはスキルパネルを開いて出てきた四つのスキルを教えた。
「まあ……、そういうこともあるかもしれないな……」
辺境伯は、どう受け取ったらよいのかわからない発言をした。
なにを言えばいいのかわからなかったのだろう。
「シカガクカの森で光の柱が立ったが、あれがシャンタル嬢が勇者として覚醒した光だったのか?」
「ああ、そうだ」
「光の柱は二つだったが、ヴァランタン、お前にもなにか恩恵があったのか?」
ヴァランタンが大魔王になった経緯を教えると、辺境伯は大笑いだった。たしかに笑うよね……。
「私はいずれ、シカガクカの森を勇者覚醒と大魔王降臨の地として売り出すぞ!」
辺境伯はまるでやり手の商人のようなことを言いだした。
観光地化して人を呼んで儲けるというのは、たしかに一つの方法よね。
「貴族のお前がそんなことを言いだすとは、そんなにお金がないのか。この城の宝はなんでも持っていってかまわないと言ったではないか。どうせ私は使わないのだからな。遠慮するな」
ヴァランタンの表情が曇った。
「もうお前の宝は残っていない」
「なんだと……!?」
「お前は長い間、ずっと辺境領カエを支えてくれた。この城の宝物庫はすでに空だ。すまない、ヴァランタン」
辺境伯はヴァランタンに向かってひざまずいた。
大広間にいた辺境領の人々も、辺境伯に続いてひざまずいた。
「たしかにこれまで、宝を補充しようなどと考えたことはなかったが……。宝が尽きていたとは……。私の配慮が足りなかった。こちらこそ、すまない……」
ヴァランタンは辺境伯を立たせ、辺境領の人々にも立つよう言った。
「宝というのは、どこで手に入るものなのですか?」
ヴァランタンだって、この城にあったという宝を、どこかから手に入れてきたはずだ。
なくなったならば、これからまた持ってきて補充したらよいのだ。
当面の資金不足はそれで凌げるだろう。
「配下たちが拾った物を入れてくれていたのだが、最近はそんなに宝が落ちていないのだろうか……」
「私たちが使う量の方が多かったということだろう。恥を知らぬ行いだ。本当に申し訳ない」
辺境伯はかすかに震えながらうつむいた。
「私は魔族としての、この永遠とも思える長い生命を、お前たち辺境領カエの民たちのおかげで楽しくすごせている。宝はその礼だ。すべて使ってくれて良いし、足りないならば手に入れてこよう」
「ヴァランタン様」
わたくしはヴァランタンと辺境伯の間に割って入った。
「今後のことを考えると、それはもうやめなくてはなりませんわ」