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夏祭り 想定外の結果

「本当に情けないなぁ…」


 優雅な足取りで歩いて来る女性がひとり、強面の男たちが、彼女のために道を開けていく。


 私たちの前には現れたのは、顔に傷のあるいかにもこの悪者たちの親玉といった風格を、隠そうともせず周囲に放つ、悪人面の女性だった。

 こげ茶色の暗めの髪を肩らへんまで伸ばし、まるで切れ味の悪いハサミで乱雑に切ったかのような毛先の並びのバランスの悪いこと悪いこと。彼女からは、女性らしさなど微塵も感じず、身なりも男性もので揃えており、それでいて、腰に収まっている剣は、やたら上物のように見えた。声も普通の女性よりは低く、男っぽい声だった。そして、なによりも獣じみたその鋭い眼光が、目だけを人を殺せてしまえそうだとそう思った。


「まさか、ガキ相手に、モーリス。お前がやられるとはなぁ」


 女がしゃがんで、倒れていたモーリスの顔を覗き込む。


「あ、あの、このひとたち早く診てもらわないと、強く顎を打ったので…」


 そこで、看病していたルコがいった。ルコはこういうとき、相手を選ばない。


 女の目だけがルコへと向いた。


「お嬢ちゃんが、こいつらを倒したのかな?」


「い、いえ、違います」


「そうだよね、君はそういう感じがしない。となると…」


 女は立ち上がり、迷いもなく静かに座っていたキアの元にいった。


「君しかいないな、グランド家の令嬢さん」


 女がテーブルに手をついて、問いただすようにキアにそう言った。


「………」


 キアは沈黙を貫いていた。


「黄金姫さん、噂は本当なんだろ?今はあなたが…」


「その話はここではするな」


 彼女の言葉にそこで初めて反応したキアが、彼女を物凄い剣幕で睨みつけた。キアの感情が怒りに傾き始めていた。


「どうしてだ?」


「黙れ…」


 私は、ルコを見ては、キアを見て、傷面の女を見たり、周りの悪人面の男たちを見まわしたりと、視線の移動が忙しかった。現在の状況が全く読み込めないのだ。それに彼らが悪い人たちなのかも分からないし、どうすればいいか分からなくなった私は、一度、とにかく、このボスらしき女性に正直に白状することにした。理由はどうであれ、暴力を先に振るったのはこっちなのだ。


「あ、あの、この人たちをぶちのめしたのは私なんです!」


 私はキアと彼女の間に割って入って、彼女の目を見据えた。光を宿さない暗く冷たい彼女の目を。


「ごめんなさい。彼がルコにちょっかいかけて、ルコが嫌がってるの見たら、私、火がついちゃって…」


 我ながらよくこの強そうな大人たち相手に、スムーズに打倒すことができたと思ったが、ルコの健気に看病する姿を見たら、もっと穏便に済ませれば良かったと今は後悔していた。


「リリャ・アルカンジュだな?」


「はい、え?なんで私の名前を?」


「嘘はよくない」


「嘘?」


「ああ、女子同士の喧嘩ならまだ分かる。だが、こいつらは一応プロだ。そこのふたりも上級騎士だし、とくにモーリス、こいつは精鋭だ。まず間違いなくお前じゃ相手にすらならん」


 彼女はそう言い切るが、実際に彼らを素手でボコボコにしたのは私で、それ以外の事実がどこにも見当たらないので、私はなんとか認めさせることにした。


「あの、私が三人を倒しちゃったんです。彼の股間を蹴って、顎を殴って、そしてこっちの彼は、座って身動きが取れそうにもなかったんで、彼の頭に飛び掛かって髪の毛掴んで後ろに引っ張って喉を殴って…」


 私がそう早口で説明し始め、最後の相手をテーブルから飛び膝蹴りで鼻を折ったと、あらいざらいすべて白状する。

 するとそれを聞いていたボスである傷面の彼女もなんだか、難問の謎解きを解き始めたような、眉間に深いしわを寄せた、難しい顔つきをしていた。


「ええっと、すると、本当に彼女がやったのか?」


 傷面の彼女が周りの悪人面の男たちに尋ねると、皆一同に深く首を縦に振っていた。


「へえ、そうなんだぁ……………え!?」


 傷面の彼女は完全に、思考が追いつかず間の抜けた顔で、私のことを見つめていた。

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