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部活紹介

 東館と西館の間にある校舎の中庭にはすでに多くの人だかりができていた。

 リリャとルコは二人で、その人ごみに紛れ、人々のすき間を縫うように、ステージが一番よく見える最前列に向かった。

 そこではこの学園の部活動の紹介がされていた。

 軽装の鎧のような防具に身を包んだ男の先輩が立っていた。腰には鞘に入った剣がぶら下がっていた。


「我々、アジュガの【剣闘部】は、誇り高きレイド王国の騎士道精神にのっとり、正々堂々と剣術の技術のみを高めることを目標としています。試合で魔法を使わない分、己の肉体のみに頼った剣でのみの戦いは、これから騎士になりたい人などにはぴったりの部活動だといえます。今の騎士や魔法使いたちは魔法に頼り、己が身を鍛えることを忘れてしまっている人も多いです。だから、ここで、純粋な肉体のみで剣を振るい相手に勝つ。そんな精神も肉体も鍛えられる剣闘部に一度参加してみてはいかがでしょうか?もちろん、剣を一度も握ったことのない初心者の方でも大歓迎です。それと男も女も関係ありません。我が部には頼もしい女性部員たちもたくさん在籍しています」


 代表者の後ろには剣闘部のメンバーがおり、女性部員たちが新入生に手を振っていた。リリャも思わず手を振り返してしまう。この部に入る気はまったくないが。


 剣闘部の紹介が終わる。大きな拍手と共に彼らはステージから去っていき、代わりに司会進行役の女子生徒が前に出てきた。


「剣闘部の皆さんありがとうございました。剣闘部は歴史の長い部活ですから、ぜひ、剣に興味があるという方は、剣闘部を訪ねてみてくださいね!」


 剣闘部は、リリャが以前通っていた小学校にもあった。このスポーツはどの国でもある一般的なもので、魔法学園でもあるここにもあるのは当然のことだったのかもしれない。


「それでは次の部活動を紹介します。魔導部の皆さんです!」


 長いつば帽子に黒いマントでステージの上に現れたのは、魔法学園であればこれといった、めだまの部活でもあった、【魔導部】だった。魔法に関する実験や、魔法の知識の探究など、この学園ならではの部活動といえた。

 そして、その魔導部に続くように、魔法に関した部活動が次々と紹介された。

 魔法を駆使して戦う魔戦部、魔獣や魔法動物のお世話をする飼育部、主にポーションの作成をする薬学部など、多くの魔法に関する部活動がこの学園にはあった。

 魔導部の紹介が終わると、リリャが待ち望んでいた飛行部の紹介が始まった。


「次は魔導飛行部の皆さんです!」


 ステージに上がったのは、魔法特区アイリスであったラウル先輩ではなく、もっと威厳のある高等部の先輩だった。おそらく、彼が部長なのだろう。


「我々、魔導飛行部は、飛行魔法によって空へと飛びたち、そこで誰よりも速さを追求する部活動となっています。毎年レイド王国内で年に一度開かれている飛行レースで優勝すること、これを目標に我々は一致団結しています」


 飛行魔法によるレースがあることは、リリャも知っていた。ただ、レイドの飛行レースの開催地がリーベ平原と王都からかなり遠いため、実際にレースを見に行ったことは一度もなかった。

 たまに実家がある王都スタルシアで、光のリングを身体の周りに浮かべて空を自由に飛んでいる人たちは見たことがあった。その人たちがもしかしたら、飛行レースの選手たちだったのかもと思うことは何度もあり、街中を一日中、空を見上げて探し回ったこともあった。


 飛行部の部長は続ける。


「そして、我々は飛行魔法という魔法に対して理解を深めると同時に、空を飛ぶための体力づくりや、飛行魔法で空を飛ぶ際の危険など、我々はあらゆる面で飛ぶという行為がどういうものなのかを真剣に取り組んでいます。空という場所は、地上に比べるとずっと恐ろしい場所です。高いというだけで落下の危険がありますし、大きなけが最悪死ぬこともあります。なので、我々、飛行部だけは入部時には適性があるかテストを実施し、親御さんから許可を頂くことを前提にしています。なので、残念ですが、親御さんから許可が下りなかった場合やテストに合格できなかった人は、入部できません。そのこともあるので、飛行部に入る際は、みなさん慎重に考えてください。私からは以上です」


 飛行部の紹介は明るさというよりかは、厳粛な雰囲気を漂わせて幕を閉じた。それはあの明るく顔の良かったラウル先輩とやらが、入部しているとは思えないほどだった。新入生たちもこれには、怖気づいてしまっているようだった。


 飛行部たちがステージから降りて、司会進行役が出て来る。


「さあ、皆さんどうでしたか?魔導飛行部は、ちょっと厳しい言い方だったかもしれませんね。まあ、飛行部のテストは結構厳しいらしいですし、親御さんからの許可も必要で入部にはちょっと難易度が高いかもしれませんね。ただ、この魔導飛行部、実は、我が学園でもトップ三位に入るほど人気の部活動なんです。なので、もしもは入れたら、君も、そこのあなたも、この学園での人気者になれちゃうかもしれませんよ?なんてったって、この学園での飛行部の人気は凄まじくてですね。飛行部の男子が空を飛んでいる姿を見た女子たちなんてもうね目で追って…私も、飛行部のラウル先輩なんて、ついついカッコイイなぁ、なんて見惚れてしまうほどなのですが……」


 そこで司会進行役の女子生徒はすぐに我を取り戻すと、咳払いをひとつして話しを戻した。


「っと、話しが逸れてしましたね。それでは次の部活動をご紹介しますよ」


 リリャは、魔導飛行部の入部テストを受けることを決めた。理由は単純。リリャの夢は空を飛ぶ魔法使いになることだから、ぴったりの部活だと思った。親からの許可も、リリャは特に心配していなかった。リリャは一度やると決めたら止まらない子だということは両親たちも分かっていたし、リリャも事前に空を飛ぶ魔法使いになりたいということを伝えて、両親もそのことには賛同してくれていた。

 そして、空を飛びたい。その魔法を学ぶならリリャは学び舎でもトップクラスの環境で学びたいと、小さい頃から、ひたすら成績だけはひたすら高い場所を維持して来た結果、この学園に入学できたということもあった。


「リリャちゃん、あの飛行部のテスト受けるの?なんか、怪我するかもしれないって、それに死ぬ危険もあるって言ってたよ…」


 ルコが心配そうにリリャの手を握っていた。


「大丈夫よ、それに部長がああやってしっかりした人で逆に安心したくらいよ、それよりも、私に空を飛ぶ適性があるかどうか、そっちの方が心配だよ。もし飛行魔法に適性がなかったら、他の方法を探さなくちゃいけないんだけど、私は、あの光のリングで飛びたいのよね…」


 魔法による飛行手段は数多く存在した。箒や、空飛ぶ板、魔導具、魔導機械。だが、リリャがいいと思った者はやはり、飛行魔法の代表と言われている飛行リングによる飛行魔法だった。


 飛行リングは、飛行魔法を唱えた際に出現する、光のリングであり、この光のリングの数によって、飛行速度や機動力が変るということだった。


「さあて、続いては、医療部の紹介になります!」


 颯爽と出て来たのは、見た目も美しい白い服に身を包んだ、これまた厳格な雰囲気を漂わせた女子生徒だった。


「みなさん、魔導医療部です。私たちは、怪我の手当てや、病気の治癒など、魔法を通して医療を専門的に学んでいくことを主とした部活動が医療部になります。将来、治癒魔法使いになりたい、それだけではなく、医師や看護師としても活躍できるように、私たちと共に学んではみませんか?」


 その美しく妖艶な医療部の部長の姿に、男たちは鼻の下を伸ばしていた。


「ちょっと部活に顔を出して、応急処置のこころへを学んでおくだけでも、万が一、大切な友達や恋人がケガをした時、あなたが、その人の命を救ってあげることができるかもしれません。だから、誰でも気軽に医療部を訪ねて来てください。ちなみに、医療部は他の部と並行しての、掛け持ち入部が許可されている部でもありますので、皆さんぜひ入部の方も考えてみてくださいね」


 女神のような笑顔で、医療部の部長が去って行く。司会進行役の女性がありがとうございましたといって、医療部の良いところをあげてみんなに勧誘を促していた。


 リリャが、ここはルコが期待していた部活だと思い横を見るとルコが固まっていた。


「ルコどうしたの?」


「リリャちゃん、今の人見た?」


「うん、かなりの美人だった。あれは間違いなくこの学校一の美女だね」


「違うよ、そうじゃなくて、さっきの人の首飾りだよ…」


「首飾り?」


 リリャは医療部部長の顔ばかりに気を取られて、首飾りを付けていたのかも見ていなかった。


「うん、あれ、白魔導士が付けてる。【白き奇跡】って白魔法の治癒の光を再現した首飾り、あの部長さん、あの歳で白魔導士なんだよ…きっと……」


 ルコが食い入るようにステージの脇に消えた医療部の部長のことを目で追っていた。


 ルコが自分以外の誰かに酷く興味を持っていることに、リリャは少しだけ、面白くないと思った。


「それならさ、会いに行って確かめてみようよ、本当にその人が白魔導士なのかどうかさ」


「え、リリャちゃん!!?」


 そういうとリリャはルコの手を取って、ステージ脇へと群衆をかき分けて走り出していた。

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