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リリャの魔法学園  作者: 夜て
黄金探索
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雨の日 魔法の階級

 一年の朱雀組教室には湿った空気が蔓延していた。窓の外では雨が窓に打ち付けられ、単調なメロディーを奏でていた。例年になく長続きする雨にみんなうんざりし、授業にも身が入らない生徒が増え始めていた。

 そんな中、私は、毎日、ハンナ先生の授業を楽しみにしている生徒のひとりだった。


 今日の授業は、魔法の階級についてだった。


「魔法には、魔法の効果や効能によって五級から一級の階級があります。これを【魔法階級】といいます」


 ハンナ先生が、外の雨の音に負けず、黒板に白いチョークで一から五の階級を書いていく。書き終わると先生は説明に戻った。


「魔法階級は、その魔法を発動するにあたってどれくらい難しいか、どれくらい危険か、どれくらいの魔力を消費するか、どんな効果で、どれくらいの範囲のものかなど、多くの判定基準のもと、魔法の習得難易度を示すものとなっています。この階級は、もともと戦時中、軍隊が魔法の破壊規模に応じて設定していた階級なのですが、私たち魔法を学ぶ者としては、この魔法階級を目安に、これからの皆さんの魔法習得に役立てて行ってもらいたいと思っています」


 それから、ハンナ先生は下の階級から順に説明をしてくれた。


「五級、四級の魔法は、おもに小等部向け、一年生と二年生で学ぶ魔法の範囲になります。例えば、水魔法や炎魔法などは五級に分類されて、そこから派生した魔法が四級だったりします。それと、自分の習得したい魔法が何級なのか知りたければ、先生に聞くか、魔法階級についての本を読みましょう」


 この学園にも図書室があったが、私は最近通い詰めていた図書館の方が頭に浮かんでいた。

 先生は話しを続ける。


「あまりにも自分の実力にあっていない、上の階級の魔法を使おうとすると、魔力切れを起して倒れたりするので、そこら辺は先生に相談するようにしてください。私ならいつでも皆さんの相談になりますので」


 それからハンナ先生は、三級、二級、一級について軽く話した。三級、二級の魔法が中等部である三年生と四年生が扱う魔法で、二級から一級の魔法が高等部である五年生から六年生が扱う魔法として説明してくれた。


 この魔法階級について後から分かったことなのだが、ハンナ先生がいったとおり、この階級は戦時中に生れた概念であるらしく、主に魔法の被害のレベルに応じてランク分けされたもののようだった。

 もちろん、この時ハンナ先生が皆に教えた魔法階級は、学園ように合わせて作られてものだったが、本来の魔法階級は、軍事的な内容が記されていた。

 それは、五級が無害な魔法あるいは命に別状はない魔法、四級が四方数メートルに及ぶ被害並びに、兵士ひとりを重傷あるいは確殺する威力の魔法などといった感じだった。

 つまり、三級、二級、一級と階級が上がって行くごとに、その魔法の被害規模も連なって上がって行くといった軍事的な指標だった。


 その後ハンナ先生は、魔法階級について詳しく説明してくれると、授業と授業の間の短い休み時間に入った。

 授業が終わると私はさっそくハンナ先生に質問しにいった。


「先生、質問いいですか?」


「はい、いいですよ」


「飛行魔法は、何級なんですか?」


 私の扱える魔法の中で一番難易度の難しそうな魔法を上げた。というより、飛行魔法は扱えない人もいるので、かなり高い階級の魔法なのではと思った。


「飛行魔法は、三級の魔法ね」


「おお…」


 期待していたよりは低かったが、それでも自分が一年生で三級を扱えているのはなかなかに凄いのではと、心の中で自画自賛する。


「だけど、この魔法階級はあくまで参考でしかないのよね」


「それって、魔法が個人の性質に大きく左右されるからですか?」


「リリャさん、大正解です。いくら高い階級にある魔法だったとしても、自分と相性バッチリの魔法であれば、使えてしまう魔法もあると思います。逆にどれだけ低い階級の魔法でも自分と相性最悪なら、使いない時もあります。そこにはいろいろな要素があるのですが、未だに不明な点が多くて、第一に考えられるのが血筋だったりが考えられることがありますね。お父さんとお母さんが、風魔法が得意だったから、自分も風魔法が得意だったとかは傾向としてあるみたいですよ」


「じゃあ、魔法ってやっぱり生まれながらにして才能が決まってるんですね」


 魔法には生まれながらにして優劣がある。体格のいい子がスポーツで有利になる様に、魔法にも生まれながらにして得意不得意のようなものが決まっていると思うと、それは、オルキナが前に言った通りだったし、かなりやるせない気持ちになった。


「そうね、だけど、厳しいことを言うようだけど、そこで諦めちゃうような人は、魔法使いにはなれないと、私は思うの」


 私は、ハンナ先生の優しくも厳しさを内包した瞳を見た。


「魔法はあくまで私たち魔法使いにとっては手段であるべきで、本当に大切なのは、自分の魔法で何ができるかだと私は思ってる。例え理想の魔法使いになれたとしても、自分が本当にしたかったことができなくちゃ意味がないと思わない?」


「それじゃあ、先生は、魔法を覚えることよりも、何ができるかというほうが大事だと思っているってことですか?」


 つまりハンナ先生は、学園の方針でいう、魔導よりも貢献に重きを置いているという考えを持っているようだった。貢献するには、その問題に対して何かをできるようになっておかなければならない。そのために魔導も必要になってくると思うのだが?


「リリャさんは授業をしっかり聞いているだけあって賢いのね」


「いえ、そんな…」


 急に褒められて内心顔が綻びそうになるが、先生は真面目な顔を崩さなかったので、なんとか耐えた。

 ハンナ先生は、そのまま続けた。


「この学園の校訓でいえば、貢献ね。これができることが、みんなの人生でも一番重要なんじゃないかって私は思ってるの。たとえそれは魔法じゃなくたっていい、何か自分のできることで、自分のできる範囲で、誰かを支えてあげる、助けてあげられるなら、こんなに素晴らしいことはないじゃないかな。そのためにも、魔法以外のことにだって力をいれて取り組むべきなのよね」


 そこでようやく、ハンナ先生は、いつものみんなに振りまく元気で優しい笑顔に戻って、私も肩の力を抜くことができた。

 貢献するということ、ハンナ先生は、魔導じゃなくてもそれをみんなにやって欲しいという願いのもと教育者としてみんなに物事を教えているようだった。魔法がすべてじゃない、魔法学園の先生が言うにしては珍しいことだった。


「私も、友達や困っている人のためになれるようになんでも頑張ります!」


「うん、その意気ね!でも、無理はしないでね」


「はい!」


 私は質問終わりにハンナ先生と片手でタッチした。これが私とハンナ先生の別れ際の挨拶になっていた。


 先生が去って行ったあと、近くにはルコがいて、なにやら私に言いたそうにムズムズしているようだった。


「ごめんね、盛り上がっちゃって、なんかハンナ先生に話すこととかあった?」


「ううん、ただ、リリャちゃん、先生と、とっても大人な話ししててすごいなって!」


「え、そ、そう?大人っぽかった?」


「うん、とっても!」


 ルコが何度も目を輝かせながら頷くので、その期待に応えてやることにした。


「まあね、私はこう見えても、淑女だから、当然ね」


 ルコの前で髪をなびかせて見せる。それを見たルコの羨望の眼差しが心地よかった。


「凄い、やっぱり、リリャちゃんは凄いよ!」


 ルコの賞賛はいつも私を得意げにさせた。


「リリャが、淑女なわけないでしょうに」


 気持ち良くなっているところに横やりを入れて来たのはオルキナだった。上流階級の淑女教育を受けたであろう、本物の淑女(傲慢)に出て来られてはこちらも立場がない。


「オルキナ、また、文句言いに来たの?」


「いいえ、淑女という言葉が聞こえましたので、ここはひとつ本物の淑女について、わたくしが直々に…」


 そこで学園の鐘が鳴った。とてもよいタイミングだった。


「よし、次は移動教室だったね。ルコ、移動しちゃおう、アガットも起こしてあげて」


「ちょっと、わたくしのありがたいお話しを聞かないっていうのかしら?」


 オルキナのこの説明というのは話が長い上に、庶民を馬鹿にしながら、かなり誇張して話すので、聞いていて疲れるものだった。一度、オルキナの小さい頃の暮らしがどんなものか興味本位で聞いたら、まず貴族というものがいかに優れているか語り始めた時は、これは説教が必要だなと思ったほどだった。それでも、私はオルキナのこういったぶっ飛んだ性格が嫌いなわけではなかった。


「いやいや、移動教室だから、ほら、オルキナも一緒に行こう。ブルトとジョアも後ろで待ってるし」


 後ろではオルキナのぶんの教科書まで持ったブルトとジョアが待機していた。


「まあ、それもそうですわね」


 私たちは、校舎の西館にある理科室に移動した。その日は、理科室で理科の実験をした。魔法学園では魔法の授業だけではなかった。普通の学校でやっているような基礎的な学習も進めていた。

 私はこれもハンナ先生がいった魔法以外の貢献に繋がると思い熱心に取り組むのだった。

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