雨の日 共有
寮の部屋に戻って来ると、机で二人の共有日記に、今日の分の出来事を書き込んでいるルコの姿があった。自分の机から椅子を引っ張って来て、ルコの隣に座った。
「ルコ、ただいま」
「あ、おかえりなさい、リリャちゃん」
「今日はどんなことがあったのかな?」
ルコの手元の日記を覗き込む。医療部の活動のことが主に書いてあった。
「えっと、今日も同じような内容でごめんなさい…」
「え、いいじゃん、それだけルコが頑張ってるって証拠でしょ、自由に書いてよ。私、ルコが毎日どれだけ頑張ってるのか知りたいし、応援もしたいからさ」
するとルコが申し訳なさそうに首を左右に振った。
「全然、治癒魔法が上達しなくて、私、まだ、かすり傷一つ魔法で治せなくて…」
ルコの書いた日記の中には何々ができなかったとネガティブな内容ばかりが書いてある。
「そもそも、治癒魔法って、小等部の生徒ができるような魔法じゃなかったけ?」
すかさずフォローを入れる。これに関してはルコの問題というよりも、私たち小等部全員がまだ、高度な魔法の取得に向いているような魔力出力に達していないのが原因であり、無理に卑屈になる意味はどこにもなかった。
「それは、ビクトリア先輩にも言われた。たくさん魔力が練れない初心者に、治癒魔法は難しいって…」
「ほら、それなら、別にルコがまだ治癒魔法を使えなくたって不思議じゃないよ、大丈夫、これからゆっくりできるようになっていけばいいんだよ」
私がルコの頭を撫でてあげると、彼女は嬉しそうに私に肩を寄せた。
「うん、私、はやく一人前の白魔法使いになりたいな」
「ルコならなれるよ、毎日、頑張ってるんだから」
私はそれから眠くなるまで彼女に今日行った図書館の話しをした。アンバーという館長と顔見知りになったこと、そして、今度、一緒に黄金探索を手伝って欲しいという主旨の内容も話した。
「私、入学してからずっと黄金探しするって、言ってたのルコは知ってるよね?」
「うん、だけど、最近は、あんまり言わなくなったよね…諦めちゃったとか?」
「ううん、むしろその逆、今までいろんなことがあって忘れてただけ、言い忘れてたけど、私、校長先生ともそのことで話したんだ」
「校長先生とも話したの!?それは凄いね!!」
いつもしゃべり過ぎてしまうのは私の方だった。それはルコが目を輝かせて聞いてくれるから、まるで自分の話しが面白いと錯覚すらしてしまう。
「そう、それで分かったことがあるんだけど、きっと、その黄金は学校で言うところの奨学金みたいなものなんだと思う…」
「奨学金?」
「そう、優秀な生徒が学費を免除してもらったりする制度のこと、まあ、だいぶ夢の無い話しになっちゃうけど、たぶん、私の予想は外れてないんだよね……」
校長先生が黄金の在処を知っているという時点でこれは学園側、あるいは校長自身が仕掛けた長期的なイベントであるとみて間違いなかった。それも在学中ずっと開催しているイベントでもあり、そして、一番人気の無いイベントでもあった。誰もこの学園に黄金が隠されているなど、信じていない様子で、そもそも、魔法学園というだけあり黄金よりも魔法の方が魅力的であることに違いはない。
私ですら、入学初期の黄金への憧れなど、日々の魔法への探究心で薄れていってしまっていたくらいなのだ。この学園では、魔法というとびきり魅力的な体験があるために、他のことはある程度、希釈されているようにも思えた。
「校長先生は、この学園に黄金があると断言してた。まず間違いなく、その黄金は、学園側が用意したもので、そうなるとその黄金の規模や価値も大体推し量れるよね。きっと学費が無料になるとかその程度の黄金だと思う」
「それって、結構なお金なんじゃないかな?」
「まあ、そうだけど、私が想像してたのはもっと、国が買えちゃうような巨万の富だったんだよ?それに比べたら、しょぼいよ」
さすがに、たかがいち魔法学園ごときに、そんな黄金が眠っているとは今に思えば分かり切ったことだったが、こうでも言わないと、入学式の時にあった黄金への熱意が冷めてしまうような気がして嫌だった。黄金を探すために、あらゆる状況から、その目標を推測していくと、それは極めて想像の範囲内のものとなって、矮小化していくのもまた事実だった。
現実的な部分に目を向け、退屈そうに話してしまった。
「それじゃあ、リリャちゃんは、黄金を探すことに興味がなくなっちゃった?」
ルコがどこか困ったような顔をしていた。
私は首を横に振った。
「いや、さっきもいったけど、黄金がこの学園にあるって分かっただけで、それはどんな形だとしても探す価値のあるものなんだと思う。校長先生も言ってたけど、この学園ができてから一度もその黄金を見つけた人がいないんだって、もしも、私たちが見つけたら、きっと学園もお祭り騒ぎになるんじゃないかな、そしたら、私たち注目の的、つまり主役だよ?そう思ったら、探す価値はあるよね!」
最近は、ずっと事件続きで、負の面で学園内を騒がせていたが、百年誰も見つけたことのない、お宝を見つけて人気者になれることは間違いなかった。そうなったら、学園内でいろんな人にちやほやされるはずなのだ。それに黄金を手に入れたとなれば、いろんな人が私のもとに寄って来るはずで、その中には、可愛い子もたくさんいることを思うと、俄然やる気が出るものだった。
「あわよくば、人気者になれば、そこでかわいい子を捕まえて…」
「もー、リリャちゃん」
ルコが口元を固く結んでいた。
「あ、あれ、アハハハ…、ちが、違うよ?別になんか、たぶん、ルコが想像してることとは全然違うよ?ほら、友達が増えるって意味だよ、友達、いいよね、友達、ほら、そんなねえ?」
目が泳いでいたことは認めよう、しかし、別にやましい考えが先行しているから黄金探索をするわけじゃない、あくまでも、それは副産物で、主な目的ではないとは言っておこう。
ただ、ルコがムスっとしていたので、私はすぐに彼女の斜めを向いたご機嫌を、立て直そうと、話しをそらした。
「あ、そうだ、明日って、アガットの新人戦だったよね?」
「そうだね」
それでも治まらないルコの膨れた顔を見て、私は最終手段に出た。
「よし、今日はもう遅いから寝ようか、じゃあ、ルコ、おやすみ!私は寝るぜ!」
私はそういうと、ベットの中に逃げるように飛び込んだ。しばらく静寂が続いたが、「もう、おやすみ、リリャちゃん、また明日ね」と毛布の外から、少しまだ機嫌の悪そうな声が聞こえて来た。
「うん、また明日」
窓の外では、まだ、雨の音が止みそうな気配はなかった。明日のアガットの新人戦は大丈夫なのかと思いながらも、目を閉じて眠りに着いた。




