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剣闘部へようこそ

 アガットの背を追って、剣闘部の活動拠点である道場に足を踏み入れる。入り口には下駄箱があり、土足厳禁と書かれていた。


「靴は脱いで入ってくれ、ここはそういう感じの場所なんだ」


 リリャは言われた通り靴を脱いで、アガットと道場の奥へと進む。


 道場の中は思ったよりもずっと広かった。木造で出来た空間は清潔感に包まれ、リリャが思っていたよりもずっと居心地のいい空間だった。多くの剣闘部の部員たちが、稽古用の木剣を振っては、ならしのような動作で二人組で軽く打ち合っていた。そのカッ、カッと剣と剣が打ち合う音も、聞いていてなかなかに、心地の良い音だった。


「すごいね…」


 リリャもこの道場特有の雰囲気と、部員たちの真剣な取り組みに圧倒される。


「リリャが驚いてくれてよかった。連れて来たかいがある、そうだ、ちょっと案内するよ、会わせたい人もいるし」


 そういうとアガットは、リリャを連れて、道場の真ん中を突き進んでいく。リリャもアガットからはぐれないように彼女の後を追う。道場の端まで来ると、そこには二階へと続く階段があった。道場に入った時、その二階に観客席があることもすぐに分かった。二階に上がって行くと、ちょっとした開けた空間があり、そこの椅子に座っているある人物に、リリャは引き合わされていた。


「来たか、アガット、待ちくたびれたぞ?」


 椅子にリラックスして、座っていた女性が言った。


「サバル先輩、こんにちは」


【サバル】と言われた女性が椅子にだらけて座ったまま、肩で切りそろえられた金髪の前髪にかかった青い瞳からこちらを覗く。その瞳には、こちらを震え上がらせるような圧がこもっていた。

 だが、そんな先輩を前にアガットは平然としていた。


「今日は友達を連れて来ました」


「友達、へえ、アガットの友達か、どんな子?」


 サバル先輩が、リリャに睨みを利かすように、視線をリリャに向けた。


「初めまして、リリャ・アルカンジュです!」


 リリャは、サバル先輩を見て怖がることはなかった。ただこちらに好意を持ってもらおうと精一杯の笑顔をつくった。彼女がどんな人間なのか、リリャは知る必要があった。


「ほう、なかなか、肝の据わった子…ん?…リリャ……」


 そこでサバル先輩が、言いよどむと椅子から上体を起こして、リリャを覗き込んだ。


「お前、まさか、あの光のリング事件の奴だろ!?」


「光のリング事件…?」


 リリャはなんだその変な事件はと思ったがすぐに、それが自分がしでかした飛行部での事故のことだと思い出す。飛行魔法を暴走させ、クリス先輩たちに助けられたあれは事件ではなく、事故なのだが、そんなのこの先輩にいっても無駄なようで諦める。


「リリャ・アルカンジュ。今年、飛行部に入部した唯一の小一で、ぶっちぎりでイカレタ野郎だって聞いてるぞ!」


 さっきまで目つきの悪い視線でこちらを威圧していたサバル先輩の目は一変、表情まで明るくご機嫌のようだった。


「なんでも、飛行部の連中じゃ誰もお前に追いつけなかったみたいじゃないか、そりゃあ、先輩たちの面目もあったもんじゃねえよな、カハハハッ!」


 笑っているサバル先輩に、リリャは苦笑いしながらも、言った。


「そんなことないです、先輩たちは私よりもずっと速いですよ、特にクリス先輩とか、彼が私が暴走した時に止めてくれたんです」


「クリス…」


「はい、飛行部の部長で、私の命の恩人でもある凄い人です!」


 面白がっていたサバル先輩の顔が、すぐにもとの威圧的かつ冷ややかな目に戻った。


「知ってるよ」


「そうでしたか…あ!もしかしてクリス先輩と、サバル先輩って、同じ学年でしたか?」


「………」


 サバル先輩はその質問に答えてくれることはなかった。彼女は再び、椅子にリラックスして座り直す。そして、先輩は口を閉ざしてしまった。

 重い沈黙が流れる。

 リリャもアガットの二人はなぜ、サバル先輩が黙り込んでしまったのか分からなかった。何がいけなかったのかも、考えられるほど、サバル先輩のことを知らなかった。


「あの…」


 リリャが場の雰囲気をよくしようと、声を掛けると、まるで死人のように沈黙していた先輩が、急に何事も無かったかのように口を開いた。


「まあ、いい、それより、お前、今日はどんなようでここに来たんだ?リリャ」


「あ、はい!私、今日はアガットの稽古を見学しに来たんです。彼女が剣闘部の新人戦を見に来ないかって誘ってくれたんで、その、ルールくらい知っておきたいなと思って、私、剣闘部のこととか全然わからなかったんで」


 そこにはリリャ自身の興味しかなかった。友達が剣を持って闘っているところを純粋に見てみたかったのと、アガットならきっと戦っている時もカッコイイんだろうなぁ、という、なんというか、そういった目で見るよこしまな私情も挟みつつ、それでも剣闘部というものがどういうものなのか、一度この目で見ておきたかったという気持ちが一番上に来ていた。


「ふーん、つまんな」


「え?」


 何が気に食わなかったのだろうか?いや、そもそも、この問いに、つまらないも何もない。


 だが、次のサバル先輩から飛んで来た言葉は、リリャも予想しない答えだった。


「なあ、リリャ、お前、今日、少し剣を持ってみろ」


「へ?」


 リリャは、頭の中が真っ白になる。

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