入学式
入学式。優等生なのか、集合時間になるだいぶ前に、少し早く新入生何人か入って来た。自分が一番だと思っていたのだろう。リリャとルコが一番出口に近い先頭の列で、談笑しているのを見て目を丸くさせていた。それから、次々と新入生が入って来ると、あっという間に、席は埋まり、体育館は満席となった。
学園アジュガの校長先生が新入生の前の壇上に上がった。星が散りばめられた柄のゆったりとした服。いかにも魔法使いらしいといったとんがり帽子。そこからはみ出ていた長い白い髪にも目が行く、そして、穏やかな顔がみんなにとても心強い安心感を与えた。たぶん、この人がこの学園の一番偉い人なんだと安堵の意味もあった。もしも怖い人が一番偉い人だったら、この学園も怖いところなんだろうと、それだけ上にたつ者の顔は大事だった。
ざわざわと騒がしかった体育館も、いつの間にか静けさに満ちていた。
校長が拡声石の入ったマイクを持った。
「ええ、私がこの魔法学園アジュガの校長の【フォース・ブランジュルド】である」
校長先生が最初に名乗った。
「ええ、みなさん、我が学園アジュガに御入学したこと大変喜ばしく思う」
そこから校長先生からのお話が始まった。
「みんなにはこれからこの学園で大いに学び、立派な自分の目指す魔法使いになってもらいたい。そのためにも私から、言っておきたいことがある。この学園には理想の魔法使いになるために、三つの掲げている信条がある。それは魔導、貢献、友愛。だ
魔導。これは魔法のこと。みんなはこのアジュガでこれからたくさんの魔法を学ぶ。そして、その学んだ知識を生かして誰か他の困っている人を助けてあげる。これが貢献。そして、私たち教職員は、新入生のみんなにそんな思いやりのある人になって欲しいと思っている。なぜなら、そうやって、重ねた相手への思いやりは、いつしか友情となり、君たちの人生を豊かにするからだ。人と繋がって行く絆の強さは、まさに友愛に他ならない」
校長はひとつ咳払いをすると、続けた。
「これから先、多くの問題や困難にぶつかることもある。それは君たち一人一人の力では達成できないことかもしれない。それでも、まあ、安心しなさい。そういう時は、落ち着いて周りを見ること。隣には君たちと同じ問題に当たっている仲間がすぐ傍にいるはず。そして、君たちの周りには、君たちを導く心強い味方である先生たちもついている。そうやって、共に歩んでいく仲間たちや教師たちと、一緒になって考え、意見を出し合い、抱えている問題を乗り越えていく。これこそ、この魔法学園アジュガの信条に当てはまる理想の魔法使いになれるということ。だから、みんなもこれから、よく学び、よく助け、多くの人と関わりを持って、立派な魔法使いへとなれるように頑張っていってほしい。そのために我々教師一同も全力で応援していくつもりである。さあ、みんな、これからの魔法学生としての人生を思う存分に謳歌していきなさい、校長の私からは以上」
校長先生がそこで深々とお辞儀をすると、会場は盛大な拍手に包まれていた。
だが、校長先生はいつまで経ってもその壇上から下りずに、拍手が自然と静かに止むのを待っていた。そして、再び静けさに満ちた時だった。
「とまあ、堅苦しいはなしはここまでにして、ひとつ私から皆さんに挑戦状を出したいと思う」
そこでいっきに会場がざわついた。新入生たちは、これから自分たちにどんな最初の試練が待ち受けているのか息を呑んでいた。
「この挑戦を突破したものには、とても素晴らしいご褒美が待っていることも約束しておこう」
ご褒美があると知り、そこで新入生たちの期待は最高潮に達していた。
リリャもその校長の言葉にどきどきとわくわくを抑えられずにいた。そして、その挑戦とはいったなんなのか、校長の言葉を待った。
「それは、この学園のどこかに隠された【黄金】を探し当てることにある」
黄金という言葉に、リリャの目が輝く。そして、周りの新入生たちも黄金という言葉に目を輝かせている。
「だが、勘違いして欲しくないのは、この私からの挑戦状は、これからの君たちの学園生活を豊かにする私からのちょっとした贈り物であるということ。だから、無理に探せとは言わない」
しかし、黄金という言葉がもつ魔力に、子供たちは浮かれているようで、校長の忠告を最後まで聞く者は少なかった。
「いいかな?あくまで、君たちは、この学園アジュガの信条を胸に、自分の理想の魔法使いに近づくことを第一に考えるのだぞ………」
校長の声は新入生たちのワクワクによってかき消されていた。
入学式は、校長の挑戦状である『黄金』によって幕を閉じた。




