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飛行部体験入部

 空を飛ぶ。いつも頭上に広がる空を、飛ぶ。

 そんなこと、この世に生れたら一度は誰もが考えたりする。

 いつだって、そうだった。

 空を飛ぶ鳥を見て、どんな気持ちで彼らは大空に舞い上がるのだろうか?いつも考えていた。

 そこに恐れはないか?

 空は、恐くないか?

 高く舞い上がった分だけ離れる地上に恐怖を感じないか?   

 空に死を連想しないか?

 飛び去って行く鳥に何度尋ねても、答えてはくれない。

 その答えを知りたくて、見あげた空に語り掛けてもみる。

 空は恐い?と。

 だが、当然、空だって答えはしない。

 ならば飛ぶしかない。

 大空に向かって自分の力で、飛ぶしかない。

 どこまでも深く青い大空に挑んでみるしかない。

 翼が無くても、魔法が繋いでくれる。

 大空への道を魔法が、開いてくれる。

 今、彼女の飛び立つ時が来た。

 空の中にあった答えは?

 それは大空の中で見つけるしかない。


 君がその目で確かめるしかない。



 リリャは、ルコとキアを連れて、学園の飛行訓練場に来ていた。

 校舎から南側に続く三つの運動場を越えたさらに先に、その飛行訓練場はあった。


 魔導飛行部の体験入部に参加することが目的で、今日が最終日ということもあり、リリャも気合が入っていた。

 しかし、そんな気の焦りから来る意気込みも、飛行場についた時の光景を見たら、興奮にかき消されていた。


「すごーい!!」


 リリャが飛行訓練場にたどり着くとそこには、飛行魔法で空を飛ぶ、選手たちが自由自在に宙を飛び交っていた。


 横に伸びた広大な訓練場には、いくつかコースが設置されており、そのコース中には、魔法で作られた輪っかが浮かんでいた。その中を我先にと光のリングを背に浮かべた選手たちが、とても速いスピードで通過していく。


 学園の主力の部活動でもあり、その飛行という場所を取る性質上、その飛行場はどの運動場よりも広かった。


「これが飛行部か…」


 正式名所は、魔導飛行部であるが、魔法学園で飛行に関する部活はこれだけで、みんな飛行部と呼んでいた。後は飛行に関するものは同好会にしかなく、飛行部といえば、この魔導飛行部の一択だった。


 リリャはさっそく、キアとルコと共に、体験入部へと乗り込んだ。


 体験入部の会場には、最終日だというのに、大勢の人で溢れていた。会場の前に立て掛けられていた看板には『適性検査実施中』との文字があった。


「うおおお、人がいっぱいだ!!どうして?」


 新入生だけではなく、上の学年の人たちも、その体験入部の適性検査を受けに訪れているようだった。


 リリャもその適性検査を受けに列に並ぼうとしている時だった。


「あら、リリャちゃんに、ルコちゃん?」


 不意に声を掛けられた先に振り向くとそこにはマリア先輩が立っていた。マリア先輩は中等部の二年生で、リリャたちの三個上の先輩だった。


「あ!マリア先輩!こんにちは!!」


 リリャが笑顔で挨拶する。ルコも慌てて緊張気味に「こんにちは」と挨拶をして、後ろのキアも軽く会釈をしていた。


「こんにちは」


 マリア先輩もみんなに笑顔で挨拶を返してくれる。その笑顔はとても上品で優雅で、声もとても大人のお姉さんという感じで、リリャは少しだけ見惚れてしまう。


「今日はどうしてここに?あ、待って、わかっちゃった、みんなもしかして飛行部のマネージャーになりに来てくれたのかな?」


「いえ、違います」


 リリャがきっぱりというと、マリア先輩はしょんぼりとした顔をした。


「そ、そうなのじゃあ、もしかして、あなた達もその、男子目当てとか?そう言う感じかしら?」


「いえ、違いますよ」


「うーん、それじゃあ、今日はどうしてここに?」


 困惑し始めたマリア先輩にリリャははっきりと告げた。


「飛行部の体験入部が今日で最終日なのできました!」


 ごくごく当たり前の理由でリリャはここに来ていた。リリャは部活のマネージャー志望でもなければ、男を漁りに来たわけでもなかった。ただ、飛行魔法で空めがけてぶっ飛ぶために来たのだった。

 ただ、水魔法も不完全で、炎魔法すら出せていない、駆け出し魔法使いの自分が、空を飛べるとは現段階で思っていなかったが、それでも、来てみるだけの価値は絶対にあると根拠のない自信と共にここを訪れていた。それにもしかしたら、飛べるかもしれないという淡い期待もどこかにあった。


 リリャは、飛行魔法のことなど、街で空を飛んでいる人を見かける程度の知識しかなく、すべては、自分の世界から遠い場所にある出来事だったが、今、その夢は目の前に迫っていると実感すると、興奮でワクワクもするものだった。


「それは選手登録したいってこと?」


「えっと、多分、そういうことだと思います。空飛びたいので」


「三人とも?」


「えっと、私だけですね」


「そう…」


 マリア先輩はそこでちょっと難しい顔をしていた。何か思うところがあるらしい。


「…そっか、ううん、それなら、適性検査を受けるといいんだけど、その前に伝えておきたいことがあるの」


「なんですか?」


「ここの飛行部の適性検査は、本当はね…新入生にとっては凄く難しくて…小等部の一年生で、飛行部に入れる子は年に五人にも満たないの、ほとんどは魔法に慣れて来た小等部の二年生と中等部の一年生から取っていてね、中等部の二年生から入れたって子もいるくらいで……」


 マリア先輩はとても慎重に言葉を選んでくれているようで、それがリリャにはありがたかった。けれど、リリャにそのような気遣いは不要といって良かった。


「へえ、そうなんですね」


「うん、だから、今年入れなくても、落ち込まないでね、同好会もあるから、そっちで一年実力を積むこともできるから…」


 心配そうな顔をしたマリア先輩とは、対照的に、リリャがぜんやる気を増していた。


「マリア先輩、ありがとうございます。でも、私、ダメだったとしても、別に落ち込んだりしませんから、安心してください。昔から、落ち込むより別のことに興味が移っちゃうような、だらしない女なんで、平気ですよ!」


 リリャは昔から、悲しいことや辛いことがあっても、立ち直るのが早く、前を向けた。それはもはや癖のようなもので、ここで部活動に入れなかったとしても、絶対に同好会の方でも楽しめると確信している自分がすでにいた。リリャはそれぐらい意志の面では強い子だった。


「そ、そうなの?」


「そうです。私、昔からそう言うところがちょっと変なんで…へへッ」


 リリャが恥ずかしそうに照れると、傍でルコがボソッと呟いた。


「そこが凄いところなんだよ…リリャちゃんの……」


 するとルコが何か言っていることに気付いたリリャが、そっと彼女の方に振り向いた。


「あれ、ルコ、何か言った?」


「え、ああ、ううん、なんでもないよ…」


 ルコが顔を赤くしながら、ぶんぶんと首を左右に全力で振っていた。


 改めてリリャが、マリア先輩に振り向くと言った。


「それに、ここで挑戦すれば、私にどれだけ飛行魔法の適性があるかわかるんですよね?だったら、なおさらいいんです。才能が一切なかったら、諦めて別の才能あることを探せばいいんですし、私、趣味とか好きなことまだまだたくさんあるんで、そこのところは全然大丈夫なんですよ」


 リリャが頭の後ろで手を組んで、にっこりと笑う。その笑顔にはどこか心強さがあったのか、マリアの顔から不安を取り除いていた。


「そっか、うん、なら頑張ってね。私も応援してる。それと、もし部活動に入れたとしたら、私が精一杯リリャちゃんのことサポートしてあげるからね」


「え、サポートって、どんな……」


 リリャの心臓がそこでドクンと跳ねる。


「私、この飛行部のマネージャーなの、だから、リリャちゃんが空を飛べるって分かったら、全力で支えてあげるから、待ってるからね!」


「あははは、そうですよね…」


 その後、マリアはマネージャーの用事があるからと、行ってしまった。


「これは、やるしかねぇな!!」


 リリャは、美人マネージャーマリア先輩に支えられる未来を想像して、にやけ面を披露しつつ、適性検査を行っていた会場へと向かおうとする。だが、そこで水を差すようにリリャは、ルコに腕を取られた。


「リリャちゃん、顔がにやけてるけど?なんでかな?」


 ルコのちょっと怖いくらいの力強い視線がリリャを突き刺す。


「え?そりゃあ、これから飛行魔法が使えるでしょ?」


 さすがにマリア先輩のことで浮かれていたなど言えなかった。


「でも、リリャちゃん、もっと別の理由で喜んでるようにも見えたけど…」


 ルコの目はどんどんとすさんでいくのを感じていた。

 だが、リリャはけろっとした様子で、怖い顔をしていたルコにハグをした。これが暴走したルコを強制的に鎮静化する手段でもあった。


「ルコ、せっかくの可愛い顔が怖い顔で台無しだよ」


「…ふぐぅ………」


 ルコはそれ以上何も言えず、黙り込んでしまった。


 気持ちを切り替えたリリャは、前を向いた。


「よし、それじゃあ、乗り込みますか!」


 リリャは、付き添ってくれたルコとキアの手をとって、走り出した。

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