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浮かれていたら

 いつまでも付きまとっていた、補習から解放されたのは、魔法安全学の追試テストに合格した時だった。


 結局、あれから、レキ先生によって、あの手この手でリリャのいいわけは通用せず、補習はきっちりすべて受けさせられていた。


 そして、補習にも欠かさず顔を出していたこともあり、追試のテストは満点で合格していた。その結果。リリャは晴れて、自由に魔法が使える身となった。

 ずっと、エーテル孔が開いた状態で、魔法がすでに使えることはできたが、規則によりそれができなかった。しかし、今では檻から解放された囚人のように、解放的な気分だった。


 一番最初に使った魔法はやはり、皆が授業中に扱っていた水魔法だった。リリャはそれを寮の部屋でやって見せたが、始めは全く上手くいかず、水は出たもののその量が思った以上に多く、そして、制御が利かなかった為、部屋中を水浸しにした。寮母のルボラにばれることはなかったが、その水浸しになった日は、リリャとルコは、二人で部屋の隅で無事だった毛布に包まって寝たし、翌日には生乾きの制服で、登校していた。


 そんなこともあり、リリャは、まだ自分が魔法使いとしては、スタートラインにも立っていないことを知った。だが、リリャからすれば、できないことがあるということが何よりも興味をそそった。逆境にこそ、そして、成長の余地があるからこそ、魔法は素晴らしいそう思った。


 テストに合格してから、数日が経った、放課後のこと。


 リリャは魔法が使えるようになったことで、放課後は常に運動場の隅で魔法の練習をしていた。リリャは、オルキナが見せた炎魔法を出そうとしていた。


「全然でないな、ファイアー…」


 ルコが医療部の体験入部にひとりで行ってしまっているため、リリャはひとりの時間を魔法の特訓に注いでいた。ルコは医療部のことになると、とても積極的だった。なんだか、親友を医療部に取られてしまったみたいで、気が気でなかった。特にビクトリアという先輩がルコと仲良くしてくれているようで、寮の自室でもルコがよく彼女の話をするようになっていた。だからといって、リリャは別にビクトリア先輩のことが嫌いではなかった。ルコに良くしてくれる先輩がいるならそれはそれで、ありがたかった。


「ていうか、新しい魔法ってどうやればいんだ…水魔法は、簡単に出たのに、炎はちっとも出てこない…なんでだろう……」


 リリャがひとりで、手のひらに魔法で炎を出そうと苦悩していた。


 と、その時だった。


「あら、こんなところで、何をしているのかしら?」


 聞き覚えのある声に振り向くとそこには、オルキナが立っていた。取り巻きでクラスメイトのブルトとジョアもちゃんと後ろにいた。


「でた、お嬢様三人組」


「お嬢様はわたくしだけ、二人はわたくしの従者ですわ」


「ねえ、ブルトとジョアはそんなこと言われてるけどいいの?」


 すると、ブルトが口を開いた。


「事実ですから」


 青に軽く黒を溶かしたような紺色の髪のブルトは、とても冷めているようでもあるが、誰にでも礼儀正しく、リリャも彼女には好感があった。


「そうです。私と、ブルトは正真正銘、オルキナ様の付き添いですから、お嬢様の言っていることは何も間違っていませんよ」


 ジョアは、ブルトと対照的に太陽みたいに明るく、それでも、ブルト同様誰にでも分け隔てなく礼儀正しく、だが、そこがオルキナ以外の人たちとは一定の交流以上は求めないようなそんな制限のあるみたいな生徒だった。

 二人はオルキナの付き人と以上に、個性を出すことを拒んでいるかのような感じに見えたが、二人からしたらそれが普通のようでもあった。


「そう、それなら別にいいんだけどさ」


 ただ、ブルトもジョアも本当にオルキナに負けないくらいその纏っている雰囲気はお嬢様そのもので、庶民の出のリリャからしたら、二人の品の良さは、オルキナ以上だと思った。


「それより、リリャさん、オルキナ様が、あなたに伝えたいことがあるとのことです」


「あ、ちょっとジョア、余計なこと言うんじゃなくてよ!」


 慌てるオルキナに対して、リリャはまたオルキナにからかわれると思って、額に皺を寄せて、うんざりした顔をした。


 だが、そこで割って入る様にブルトが言った。


「リリャさん、魔法安全学の追試合格したんですよね?」


「え、まあ、そうだけど、それがなにさ」


 そこでブルトとジョアに背中を押された、オルキナがリリャの前に押し出されて来た。


「えっと…」


 オルキナは、リリャから視線をそらしながら、口ごもってしまう。


「なに?また、何か嫌みでも言いに来たの?」


「ち、違いますわよ!あなたが、朱雀組でたったひとりだけ、落ちたことが許せなかっただけですわ!」


 オルキナがそういうと、ブルトとジョアが後ろで頭に手を当てたり、首を振ったりしていた。そのしぐさが気になったが、リリャはオルキナの発言が納得いかなかったので反発した。


「別にそれは私がただできなかっただけだから、問題ないでしょ」


「問題ありますわ、あなたが、そんなことをしていると他のクラスに朱雀組だけ馬鹿にされてしまいますわ」


「だったら、馬鹿はリリャだけだって、そいつらに言っておいてよ、別に朱雀組のみんなは優秀なんだから、私とみんなは関係ないでしょ」


「関係、ありますわ」


「どうしてよ」


「あなたが、バカにされること、それは朱雀組の恥じ、そして、朱雀組にいるこのわたくしの恥じでもあるんです。だから、あなたが馬鹿でいようとするのは許しませんから」


 オルキナは怒っているようにも見えたが、とても困惑して自分でも何を言っているのか分かっていないようでもあった。だからなのか、ときどき、緊張した時のように、声が高くなったりと、どこか調子がおかしかった。

 オルキナは常に周りを見下すようなものいいで、クラスのみんなからも距離を置かれていた。ただ、孤立し用途も彼女には、常にブルトとジョアがいるため気にも留めていないようで、そんな彼女が朱雀組のためというのは違和感があった。後に言った自分の為ならまだわからなくもないが。


「オルキナって、そんなにクラス愛あったけ?」


「う、うるさいわね」


 オルキナがそっぽを向くが、ちらりと横目でリリャの方を見た。


「と、とにかく、追試合格、おめでとう」


 その言葉をとても早口で言うと、彼女は逃げるように、その場から去ってしまった。


「え、あ、ちょっと…」


 リリャは困惑しながらも、どうせなら、炎魔法の出し方を教えてもらいたかったが、ものすごいスピードで走って行くオルキナを止めることはできなかった。


 ブルトが後を追う、そして、ジョアも後を追おうとしたが、そこで一度リリャの方に振り向いた。


「リリャさん、どうか、これからも、お嬢様と仲良くしてあげてくださいね」


「え、あ、うん、そのつもりだけど…」


 嵐のように過ぎ去っていた一同を、見送ると、リリャはまたひとり訓練場の片隅で炎魔法を出す練習をしていた。


 そうして、結局一度も手から炎を出せずに、夕暮れ時になると、知った顔がリリャのもとに現れた。


「リリャ」


「アガット!どうしたのこんなところに?」


「リリャ、こそ、こんなところで何をしてたんだ?」


 アガットが校庭の芝生の斜面を下って来る。


「炎魔法の練習をしてたんだ。水魔法みたいな要領で炎をイメージしてたんだけど、なかなかうまくいかなくて」


「そうか、魔法のイメージの定着には時間が掛るって、ハンナ先生も言ってたな」


「そう、水魔法は簡単だったんだけど、炎は全然上手くいかなくてさ、ところで、アガットは何してたの?」


「剣闘部の体験入部に行ってた」


 剣闘部、己の肉体と剣のみで剣技を磨いていく歴史ある伝統の部活だった。魔法学園では魔法を中心に物事があるが、剣闘部はあくまでも、魔法無しでの部活動で、これは魔法に頼らない剣技を身につけるためでもあった。


「おお、そっか、アガットは、騎士団志望だもんね、剣の扱いも心得ておこうってわけね」


「ああ、騎士である以上、剣は戦いの基本だ。学んでいて損なことはない」


「へえ、かっこいいじゃん!」


「別に、普通のことだ…」


 リリャが、アガットに身を寄せて肩肘でつつくと、彼女は少し照れていた。狼のような狂暴なイメージのある彼女だが、意外に素直なところもあり、その鋭さが丸くなった時のギャップが、アガットというひとりの女の子としての可愛らしい一面でもあった。


「すまないが、私はこれから寮に戻るから、また明日な、リリャも門限前には帰った方がいいぞ」


 リリャとは寮の場所が違うアガットは、そういうとそそくさと行ってしまった。その後ろ姿は少し機嫌がよさそうだった。


 またひとりになったリリャはそこでまた、炎魔法の練習をしようとしていたが、そこであることに気が付いた。


「って、ちょっと待てよ、何か忘れているような…」


 リリャが数秒、暮れていく夕日に染まった雲を眺めていた。


「あ!!!」


 リリャはそこで思い出した。


「飛行部の体験入部に行くのすっかり忘れてた!!!」


 体験入部は明日で終わりだった。

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