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見学

 見学だった。


 リリャは魔法の実習の授業の見学をくらっていた。魔法安全学の追試テストは、一週間の補習が終わった後の月曜日に受けることになっていた。それまで、リリャは学園内での魔法の使用は一切禁止だった。

 エーテル孔がすでに開いているリリャは魔法が使える状態だったが、規則がそれを許さなかった。


「暇だ…」


 リリャはみんなが校庭で、水魔法を出す練習をしているのをただ何もせず黙って眺めていた。


 テストに受かった朱雀組の生徒たちは、すぐにエーテル孔を開けてもらっていた。すでに開いているものもいたが、それはリリャのように急に開いたのではなく、ここに来る前から開けてもらっている生徒たちで、そのほとんどは事前に魔法教育が行き届いている貴族の子がほとんどだった。

 ただ、ほとんどの生徒は、テスト合格後にエーテル孔を開けてもらっていた。


 エーテル孔を開ける時は、背中に手を当てられ、数分そのままジッとしていたら終わっていたとルコがいっていた。とても簡単で痛くもなんともなかったらしく、その後、専門の魔法使いによって、エーテル制御を安定させる処置を施してもらったらしい。それも、ただ、目の前で数分ほど手を翳されて終わりのようだった。


 リリャの場合は、突発的に、エーテル孔が開いてしまったことにより、体調を崩してしまったことが原因だったが、専門家に任せていれば、そんなことは起こらなかったという。


 どうして自分だけこんなことになったのか、リリャは日ごろの行いが悪かったのかと反省を試みたが、ここに来てからの態度が悪かったとも思えなかった。


「いいな、みんなは、魔法が使えて…」


 水魔法は魔法学園で一番最初に習う基礎魔法のひとつであった。


「はいはい、みんな、イメージを大切にね、魔法はイメージを形にすることが大事だから、清らかな水が流れるイメージを想像したり、水に関することを口に出してみてもいいよ、雨、滝、水滴とかね」


 ハンナ先生が、校庭で必死に手から水魔法を出そうとしている生徒たちを見て回る。水魔法基礎ではあるが、思ったよりも魔法で水を出すことにみんな苦戦しているようだった。


「よっしゃ!できた、余裕だな」


 男子のひとりが手のひらに水球を作りだしていた。


「おまえ、すげえな、どうやったんだよ」


「簡単よ、頭の中に水をイメージした後、それを球体にするようにすれば簡単にできる」


「よっしゃ、やってみるわ」


 するとそうアドバイスをもらった男子生徒も水球を作ることができていた。


 そして、リリャは視線をルコとアガットの方に向けた。二人とも苦戦しているようだった。アガットは大量の水が手から溢れていたが、球場を作ることができず、ルコの方は水魔法を出すのも大変そうだった。


『ルコとアガット、大丈夫かな…私にできることないかな…』


 リリャは二人の為に何かできることは無いか考えていたが、それよりも圧倒的にリリャの方が後方にいるということをリリャは自覚していないことは間違いなかった。


「あらあら、これは、これは、朱雀組で唯一不合格だったリリャさんではないですか?」


「げッ、オルキナ…」


 リリャの前には、このクラスいち大貴族出身のオルキナが立っていた。彼女は、常にお高くとまっており、クラスの中でもその貴族という権力を振りかざし幅を利かせていた。ただ、嫌みも許さないほど、彼女の地位は本当に高く、そこらの貴族の出の生徒たちは立場をわきまえて、彼女には関わらないようにあえて避けているようだった。


「げッ、とは、このわたくしを前にして、不敬に値しますわ、いいですの?あなたのような庶民が、このわたくしとこうして対等に話せていることじたい…」


 くどくどと興味の無い貴族トークが始まる前に、リリャは彼女の話を遮った。


「はいはい、分かったから、それでオルキナは、水球を作れるようになったの?」


「馬鹿にしてもらっては困りますわ、こんな初歩の初歩、遠い遥か昔に習得済みですわ、ほら、ごらんなさい」


 するとオルキナがリリャの前で手を広げると、あっという間に水球が出来上がった。


「おお……」


 リリャは改めて目の前で魔法が生み出されたことに、純粋な気持ちが溢れ、感動していた。

 そのオルキナが作り出した水球は誰よりも綺麗な球状で、ゆらぎなど一切ない完璧な球体だった。


「すごい…」


「当然でして」


「もしかして、オルキナは、前から魔法を学んでいたの?」


「当たり前ですわ、魔法は貴族のたしなみですもの、小さい頃から魔法は習い事のひとつでしてよ?」


 魅入られるように見つめていた。

 やがて、リリャがオルキナの手を包み込むように触れて、その水球を見つめだした。


「ちょ、ちょっと、リリャさん」


「綺麗」


「は、はあ?」


「とっても綺麗」


「そ、そんな、わたくしは…」


 オルキナが戸惑い出すと、次第にその綺麗だった水球は歪みはじめてしまった。そして、最終的には、顔を真っ赤にしていたオルキナの手からその水球は、完全に形を崩して二人の手を濡らし、地面の染みとなった。


 リリャが、オルキナの手を握る。


「ねえ、もっとさっきの水球、みせて!」


「………」


 オルキナは、一瞬時間が止まったように固まっていたが、すぐに我に返ると、リリャを直視できずに言った。


「あ…ええ、よ、よろしくてよ!!」


 オルキナは、そうやって、リリャの前で綺麗な真円に近い水球を作っては、その授業中、リリャの暇をつぶしてくれていた。

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