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保健室

 問題文を見ているよりも熱に浮かされている時間の方が長かった。テスト中、全く持って集中できなかった。

 リリャの頭の中にはテストの中の答えを導くたくさんの答えが渦巻いていたが、それらすべて熱のせいで、頭の中でぐるぐる回るだけで、答案に書き記されることはなかった。


 リリャは、最後までテストの答えを解こうと足掻いたが、解けたのはせいぜい、二、三問。回収されていく白紙に近い解答用紙が、とても見るに堪えなかった。


 悔しい。


 リリャがそう思うくらいにはこの二週間、結果を出すために頑張った。

 しかし、それもすべて熱のせいで台無しになってしまった。


 テストが終わり休憩時間になると、ルコとアガットに連れられて保健室に連れて行かれた。


「あら、どうしたの?」


 保健室の扉を開けると、そこには白衣を着た女の先生が椅子に座っていた。


「熱があるんです」


「あら、それは大変ね、こっちへ連れて来て」


 先生に導かれると、アガットに背負ってもらっていたリリャは、ベットの上に寝かされた。先生がすぐに、額に手を当ててある程度の熱を測る。


 ルコとアガットが、保健室の先生がリリャの看病しているところを見守っていた。


「これ、ただの熱じゃないわね…」


「え?」


 ルコが思わず身を乗り出した。


「この子、エーテル制御が上手くできてないみたい」


「エーテル制御…って、エーテル孔を開けた後にする、体内調節ですよね…」


「そうよ、魔法使いなら基本中の基本、それがこの子はできてない。そりゃあ、体調を崩すわけ、まったく、魔法使いならこれくらい制御できるようにならないとだめよ?」


 保健室の先生は優しくそうリリャに語り掛ける。


 だが、そこでルコとアガットは、今の状況を上手く呑み込めずにいた。


「先生」


「どうしたの?」


「リリャちゃん、まだ、一年生で、エーテル孔を開けてもらってないんです…」


 ルコが、そう言うと保健室の先生も、すぐに目の前にいるリリャという女の子に対しての状況が読み込めなくなり、一瞬固まっていた。


「前から開けてもらっていた、わけじゃなくて?」


「はい、リリャちゃんとは前いた小学生の頃から一緒ですが、魔法を使ったところをみたことが無いです」


 リリャの傍にいた彼女だからこそ、その質問にはっきりと答えることができた。


「それなら、自力で開いてしまったということになるわね…」


「自力で?」


 アガットが顔をしかめた。習った教科書にはエーテル孔は熟練した魔法使いにのみ開けられると書かれていた。


「そう、決してありえない話しではないわ。本当に稀に自分でエーテル孔を開いてしまう人はいるのよ。だけど、初めてエーテル孔を開けるには大量のエーテルが必要で、それを集める技術だってなくちゃいけない。だから、初めて魔法使いになる人は、熟練の魔法使いに、エーテル孔を開けてもらう、一番初めにこの学校で習うことね」


 大量のエーテルを集めることができるのはやはり熟練の魔法使いということになるわけで、たかが数週間前から魔法のことを知ったリリャにそれは不可能であった。だが、その不可能を可能にしてしまったリリャが今ベットの上で熱にうなされていた。


「そうと分かれば、すぐに私がエーテル制御の手助けをすれば、体調も良くなるはず」


 保健室の先生は、講釈を垂れる前に、今苦しんでいる患者のリリャを助けるために、リリャの胸に手を当てた。


「ゆっくりと息を吐いて、そう、そして、ゆっくりと吸って、吐いて、吸って」


 保健室の先生の言葉に合わせてリリャが呼吸をしていくと、すぐにその効果は表れた。まるで、さっきまで苦しそうにうなされていたリリャが嘘のように、けろっとした様子で、ベットから起き上がった。


「あれ、凄い、気分が良くなった」


「あなたリリャさんね?」


「そういうあなたは、えっと、保健室の先生ですか?」


 リリャが辺りを見渡して、ここが保健室であるとすぐに見抜いた。


「そうよ、私は保健室の先生の【ベトアラ】、体調が悪かったり、怪我とかしたらすぐにここに来てね」


 おっとりとしていてどこか妖艶さも感じさせる保健室のベトアラ先生は、長い茶髪を後ろで束ねており、銀の瞳がキラキラと輝いていた。


「そうだ、ベトアラ先生」


「なにかしら?」


「ルコは白魔導士を目指しているんです。良かったら、ルコにいろいろ教えてあげてください」


 そういうと、ベトアラがルコの方を向いた。


「そう、あなた白魔導士を目指しているのね?」


「あ…その…全然、自信はないんですけど……」


 ルコがさっきまでの威勢が無くなり、急に恥ずかしそうにしていると、ベトアラが少し間を置いて何かかんがえるようなそぶりを見せた後、ルコをまっすぐ見つめて言った。


「自信はね、やらなくちゃつかないものよ。やって後からついて来るの、だから、ルコさんが本当に白魔導士として人を助けたいなら、そのためには、自分ができることなんでもやっておくことよ、そうすれば、たとえ、白魔導士になれなかったとしても、あなたの中に残るものは確実にあるから」


 そこでリリャが横から生意気にも口を挟んだ。


「なんでそんなに否定的なんですか?」


「そうね、ちょっとまだ現実を語るには早かったわね、だけど、少し本音で言わせてもらうと、ルコさんが目指している白魔導士は、なりたくても誰もがなれる者じゃないから、それだけは覚えておいて、そして、あなたが人助けをしようとするその心は素敵なことなんだって、絶対に忘れないでね」


 ベトアラが優しく微笑むと、ルコの顔にも笑みが生まれていた。


「はい、ベトアラ先生、ありがとうございます」


「私も、ルコさんが、白魔導士になれることを応援させてもらうわ」


 すっかり元気になったリリャは、ルコとアガットと共に保健室を後にした。

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