誇大妄想
極限の状態まで追い詰められた時、人は極限のその向こう側の幻を見ることがある。
和義は、文武両道で名高い名門校のサッカー部に所属している。
他のメンバーも一流。和義もそれに負けじと練習に身が入った。
「見える。ゴールまでの道が。見える。仲間に配置と敵の配置が。このゲームは俺が制す」
アドレナリンがどばどばでてくる。
ピー!
試合終了の合図。
気がつくと、和義のチームの圧勝だった。
「やったな」
「ああ」
興奮冷めやらぬ部活のあと、自宅まで自転車を走らせ、食事と風呂を手早く済ますと自室に籠り勉強を始める。
サッカーの時のアドレナリンが残っているのだろうか?目はぎんぎんに冴え、おもしろいように知識が吸収されていく。
「はるか高みをめざせ」
「ライバルは己自身」
「俺はなんだってできる。やってみせる」
そんな日々を過ごしていた。
「先生!和義が倒れました!」
誰かが叫んでいるのが聞こえた。しかし目の前が真っ暗で、泡を吹いて倒れていたと、後から聞かされることになった。
「オーバードスだ、和義」
誰かが耳元で言った。
気付くと病院の白い部屋で寝かされていた。
「俺は世界を制す」
和義の言葉に、医者は誇大妄想と診断した。
「なんでも度が過ぎるといいことはないよ」
「……」
和義はいつまでも独りぶつぶつ呟き続けた。