悪役令嬢ですわ
悪役令嬢の朝は早い。
一分の隙もなく、美しい姿にならなければならない。
そもそも第1王子の婚約者なら、当たり前にしなければならないが。
「今日は晴れです。転生者が増えるかもしれませんね」
「今や転生者は157人、いや昨日で158人ね」
「これ以上増えないと良いですね」
朝の支度を終え、気合いを入れ直す。
悪役令嬢は高みに立ち続ける必要がある。
悪役令嬢がいる限り、転生者は私に寄ってくる。
「おはようございます、フリーナ様」
「おはようございます、ユウナ様」
転生者との触れ合いも大切だ。
密に連絡を取り合うことによって、転生者の動きを把握しなければならない。
「なにか困ったことなどは無いですか?」
「特にありませんわ」
「私もです」
「そういえば新しい人が転生してきたってほんとですの?」
新しい人が入るたびにコミュニティに報告して、繋がりを持たせたりもする。
「えぇ、よろしくお願いしますね」
「はい!」
転生者はある日、突然に令嬢や令息に乗り移るのだ。
それも乗り移る人格と融合、人格が複数存在する等人によって違った問題が起きるのだ。
「おはようフリーナ、今日は死にたくなるくらい綺麗な空だね」
「おはようございます名無しさん。午後に雨が降るそうなので今日はやめた方がいいかと」
「そうなんだ、雨は好きだ。生命が溢れんばかりに輝くから。いや、カエルが沢山出るから嫌い、でもカエル美味しいよね。いやだ!カエル食べたくない!」
「落ち着いて、カエルは結界で弾いてあげますから」
「いつもありがとうな、フリーナ殿!」
「名無しさんも私と仲良くして下さり光栄です」
彼女がその最たる例だ。
ミランダ エカトリーナが貴族名だが、転生者名で名無しさんと言う。
転生名は私が作った制度だ。転生者の管理、また混乱を避けるためという理由で作った別名を使える制度。
だが、本当は貴族名で呼ばれる事を嫌悪する転生者に対応する為の制度だ。
前世で恋人や家族と気がついたら会えなくなり、今まで別の家族と過ごしてた日々が頭の中に存在すること。
それは多くの転生者が、苦悩している点なのだ。
中でも名無しさんは、1人に転生した数が最多の10人だ。
年齢、性別、食べ物の好み等、バラバラで表に出る人格もランダムという境遇だ。
人格が変わる時に髪色が変わるため、わかりやすいのだが他の人達には爆弾のように扱われている。
私以外の貴族は、誰も彼女と一緒にいる所を見たことが無い。
「名無しさん、これから殿下と登校しますので失礼します」
「いや!フリーナ姉ちゃんは、俺と一緒がいい!」
10人中9人は私を好ましく思ってくれているようで、基本的に彼女は私の言う事を聞いてくれる。
だが、精神や年齢によっては中々厄介な時もあるのだ。
「それなら、殿下と一緒に登校しますか?」
「えっ?」
途端に顔が青ざめ、時に高揚する。
「男、腹黒、いけ好かない、意地悪、私の王子様!でも、婚約者のフリーナ様いるし、馬に蹴られて死ぬ!萌え死にする!」
「どうなさいますか?」
私としてはどちらでも良いのだ。
ただ、後で殿下の機嫌を取らなければならないが。
「行きます!今度こそ貴方からかけられているチャームを解いて、殿下を真実の愛で受け止めるのです!」
「梅子様、朝にいらっしゃるのは久々ですね」
「梅子って呼ばないで!」
「名無しさんと呼んでも怒られるので」
私を嫌い、殿下に思いを寄せている人格の梅子様。
普段私の事を敵視して、表に出るのは稀ですが。
殿下と登校するのに、憧れているとか。ゲーム内スチルだとか。
「フリーナ、今日も君は美しいな」
「殿下も、陽の光が嫉妬する程、美しいですわ」
毎朝、歯の浮くようなセリフを言ってくれと頼んでいるのはこちらですが、殿下は真面目な顔で仰るので本気なのかと思ってしまいそうになる。
「殿下、友人の名無しさんですわ。一緒に登校してもよろしいでしょうか?」
「もちろん、フリーナの友人であれば私が断る理由など無い」
「殿下、私殿下の隣に立てて光栄です!」
梅子様は殿下の隣に立ち、腕をとる……直前、髪色が変わり、
「も、申し訳ありませんでした!」
青い顔をしながら、名無しさんが去っていく。
1つの人格で、2分保ったことが無いせいで梅子様は未だにスチルが取れないと私にまた、あたるのでしょう。
「あれで良かっただろうか、フリーナ」
「えぇ、いつも通り完璧ですわ」
そしてまた、長い悪役令嬢の1日は続くのだ。




