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番外悪霊39

コーヒーを手に席に戻ると、克也は静かに冷めたコーヒーをすすっていた。


私は、どう声をかけて良いのか分からずにコーヒーにミルクを入れてかき混ぜる。


「そろそろ…変える時間かな…」

私はスマホで時間を確認する。すると、ヘロヘロに寝ていた山臥が、いきなり起き出して抗議を始める。

「いや、12時まで居よう。このままじゃ、何も解決しないしさ。」

「何を解決させるのよっ。」

小説なんて、皆、書かないじゃない。


私は山臥を睨む。


「いや、まだ、話は終らない。」

克也が俺様系に戻ってる!

私は、正直、嬉しくなりながら彼をみた。

「検閲の話は分かったわ。確かに、今までの変な説より説得力があったよ。」


そう、検閲…これなら、どうしょうもない理由になる…え?

ここで、疑問が生まれる。

そう、政府(おかみ)からの制限なら、そう説明すれば良かったはずだ。

それなら、皆、納得するし、自分の名前を傷つける必要もない。

寧ろ、どれだけエログロだったのか、読者は期待と共に乱歩を手放したりはしないはずだ。


「そうだ。さすがに気がついたようだね。」

克也が私に先生のような笑顔を向ける。

「うん。検閲…されても、戦後、解決編を書かなかった理由にはならないんだよね。死ぬ瞬間まで、執筆し続けたと言われた乱歩が、外部の理由で発表できなかっただけなら、後に書いたのではないかと思うわ。」

私の頭に様々な事柄が浮かんでは消えた。

もしかしたら、密室に問題があって、横溝先生に指摘され、後に『本陣殺人事件』として、受け継がれたのではないか、とか。


「ああ。気がついたようだね。君がそこをスルーしたなら、ただのつまらない検閲の話で終わらせようと考えたのだがね。」

克也はホームズを意識したようにフフンと笑い、私の胸にモヤモヤを生む。

「へー。」

と、しか、答えられなかった。

モヤモヤはする。

が、俺様克也の面白回答を聞きたい方が勝る。


注目されると知ると、克也は静かに笑みを浮かべて話はじめた。


「1933年、検閲に追加される事項がある。

戦争の虞ある事項

その他著しく治安を妨害する事項

この2つだよ。」

克也はどやるが意味不明だ。

「それがどうしたのよ、『悪霊』のどこに戦争が関係するの?治安の妨害…するほどエロくも無さそうだけれど。」

私の台詞に克也はがっかりしたように口角を下げる。

「ダメだよ。文章だけをみていては!時代を感じなければ。」


そう言って見せられた1933年の年表に軽い目眩を感じた。

1933年3月

このとき、アドルフ・ヒトラーが全権委任法を可決させる。

これにより、ヒトラーの独裁政権が誕生するのだ…

そして、日本は国際連盟を脱退した。


1933年は歴史の転換期でもあったのだった。


「歴史の転換期…でも、それが、『悪霊』になんの関係があるのよ…」

反論はした。が、何か、空気が重く感じもした。


怪談をしていると感じる…何かの気配が体を包む。

「5・15事件により、日本は軍主流に変わって行く。 それと共に、西洋の思想等も規制の対象になっていったのではないかな?


SPRと言う団体はイギリスをはじめとした欧州の組織で、様々な学者や哲学者が名を連ねていた。

そして、霊や未来予知について、江戸川乱歩も能力者に接触していた可能性もある。

乱歩は…残酷な未来を垣間見て、先が書けなくなったのではないだろうか?」

克也は言いたい事だけ言って席をたった。


そんなの…無茶苦茶じゃん…


私は脱力しながら、心の中で呟いた。


5・15事件で犬養首相が暗殺された。

世界恐慌で企業が倒産し、農家も生活に苦しんでいた。

貧富の差が広がるなかで、日本政府も求心力を失い、軍が台頭してくる。


歴史は繰り返す…

でも、反省と改善は可能である。


まるで、何かが囁いたように、そんな言葉が思い浮かんだ。


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