番外悪霊36
11時をまわった。
私は気持ちよく『悪霊』の余韻に酔っていた。
『悪霊』の本当の真実は分からない。
でも、いい気がした。
誰が考えたって、所詮、二次作…されど、二次!
かつて、終わった物語の、語られなかった脇役の、物語を作ろうと考えたところから、WEB小説は始まったと言われている。
そう、二次作上等!
著作権が切れて、私に持ち込まれた、乱歩の遺産。
死ぬまで楽しませてもらうわっ。
とても幸せで、受かれた気持ちになった。
うちは貧乏で、何にも良いものなんて無いけれど、こうして、生きていれば、思わぬ遺産が転がり込んでくるのだから。
いつか、『悪霊』を発表しよう。
原作江戸川乱歩…その横に私のペンネーム…
湖南渡異留、使っちゃおうかな…
ああ、なんていい時代に生まれたんだろう!
江戸川乱歩とタックを組んで世界に物語を発信できるんだから。
この、私がっ。
夜も更け、怪しいテンションで喜ぶ私に克也が諦めたように語りかける。
「しかし…残念だよ。豪華メンバーで謎を解いて見たかったが、やはり、召喚系は、とりつかれる恐れがあるし…これでよかったのかもしれないな。」
克也の恨み節になんだか、不気味な不安に陥る。
一体、何をしようとしてたんだろう?
「召喚…って、まさか、こっくりさんとか言わないわよね?」
私は、子供の頃に流行った占いを思い出した。
「こっくりさん?あれは、表向きはキツネをよぶんだぜ、霊を呼ぶならテーブル・ターニングと言って欲しいね。」
克也も夜がふけて、変なテンションになってきた。
「なんでもいいけど、いい大人が、ファミレスのテーブルでやることじゃないわ。」
私は、文句をいいながら、そんな場面を想像した。
ホラーの出だしとしては、わりかし面白い気がする。
「いや、たいそうな道具は要らないさ。
今なら、コイントスでも興味深い結果を得られそうな気がするからね。」
克也は勿体ぶるように言ったが、経験上、大した意味はない。
それに、中年3人でファミレスでコイントスするのも、悪目立ちするに違いない。
「まあ、やらないさ。卯月さんが決めたんだから。
面白い小説を是非、書いて公募を目指してくれ。
入選しても…俺はアドバイス料はいらないぜ。」
克也は笑う。
アドバイス料…100円儲けたら、10円くらいだろうか?
ふいに、自虐ネタを思い付いて笑ってしまう。
すると、克也は不満そうに私を見る。
「バカにしてるね?では、第3の仮説を提示しよう。」
克也は日帰り温泉のイベントにくるマジシャンのようにそう言った。
「第3の仮説…」
私は、この短い間に、また、何か考える、克也の知識に感心した。
そして、この、普通なら、なんともならない、克也の案を、少しでも金に出来ないものか、と、考えていた。




