番外悪霊35
私の頭には今日一日で4人の江戸川乱歩が生まれた。
呑気でエログロナンセンスが好きな乱歩
友情のために、出来ない仕事をなんとかしようと頑張る乱歩
たまたま、クリスティーの新作とトリックが似て、パクリ疑惑に困惑する乱歩
そして、SFミステリーに挑戦する乱歩…
それは、着流しのラフなスタイルから、昭和モダンまで、スタイルも性格も違う江戸川乱歩が揃った。
そして、私が一番気に入ってるのはSFミステリーのモダンボーイの乱歩。
山臥をモデルに、少しチャラくて色男。
頭の中に新しい物語が花開く
主人公は江戸川 亜蘭
相棒はは小林好雄
彼らはフリーの宣伝屋で物書き。
昭和の怪奇事件を調べては、見世物小屋や旅回りの一座にシナリオを売る。
ああ、どれも面白そう。
ああ、みんな書いてみたいわ…
個性の違う江戸川乱歩を
昔のテレビ番組を思い出した。
あの当時は、各テレビ局で明確なカラーがあって、同じ、乱歩作品でも、テレビ局ごとに決まった俳優とカラーがあった…
みんな好きだった…
あんなのを作ることは出来ないだろうか…
決めたわ。
私は克也を見た。
「私は占わないわ。だって、登場した乱歩はみんな素敵なんだもん。
私は、いつか、みんな書くわ。」
そうよ、人気作家じゃないんだもん。
他人を感動させるなんて、物凄く難しいもの。
でも、私を楽しませる話は…きっとかけるに違いないわ。
「凄いね。」
克也は馬鹿にしたような、嬉しそうな、不思議な笑みを浮かべていた。
「じゃ、出番は無くなるわけだ。」
山節はオブザーバーから外されて、呆れたような、憐れむような顔でずれた方向にボヤいた。
「まあ、いつになるかは分からないわ。
でも、『悪霊』連載100年目まで、あと10年あるんだもの。
私も、素敵な10年を歩んで、私の乱歩を作り出すわ。」
私は、あてにならない夢を気持ちよく吐き出した。
何となく…隣の空席で、剛の霊が笑っている気がした。




