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番外悪霊32

『フラッシュ・ゴードン』は、確かに1930年代から連載されていた。

が、そんな真実を告げたところで、こんな馬鹿げた推理を読者を納得させる(すべ)を私は知らない。


「確かに、『フラッシュ・ゴードン』は、『悪霊』の時代だわ。でも、それで読者が納得なんてしないわよ。」


私だって、しないわ。


ふてくされながら、克也に言った。


大体、どうやって、話をまとめたら良いのか…分からない。


「確かに、今の若者に『フラッシュ・ゴードン』は刺さらないな。」

「いや、そう言う問題じゃ…」

「じゃあ、ラブクラフトならどうだ?」

「クトゥルフ神話の?そんな馬鹿な説を書いたら、私、乱歩ファンに怒られるわ(>_<。)」

私は訳が分からないまま克也を見つめた。


確かに、ラブクラフトは、SF宇宙冒険ものに影響を与えているが、江戸川乱歩とはジャンルが違う気がする。

「そうだ。時代は確実に変わってきてるんだよ。

確かに、乱歩は、本格推理ものは書けなかったかもしれない。が、若者のトレンドを感知する力も、全てを捨てて新しいジャンルにかける行動力も持ち合わせていた、と、したら?」

克也の説明に力が入る。

なんだか、怪しい宗教に勧誘されてる様な気持ちになる。

「凄いね…よく、そんなこじつけが思いつくって感心するわ。」

私は溜め息をつく。

否定する自分…でも、それも楽しいと考える自分もいる。


江戸川乱歩は、舞台で映える、民衆が楽しめる作品を考えていたんだと思う。

転職、ニート生活を通じて、小説家一本で生活すると決めたときから、彼にとって、小説は現金と交換できる内容でなければいけなかったはずだ。


書籍化した人達の様々な記事を思い出した。

文章にすれば、当たり前で、気にも止まらない事だけど、

こうして、作品をさらし、公募に応募し続ける…

作家になれば、その言葉が胸をつく。


金に交換できる話を書くなら、異世界ファンタジーが良い。

読者が求めるテンプレで。

難しくない内容と、時々、お色気ヒロインと、アクションを入れて。


でも、それで本が売れたら…三文作家とバカにされる。


私の時代でも厳しいのだから、文学が高尚(こうしょう)なものだと言われた時代の乱歩は、それ以上に大変だったと思う。

家族にも下手をしたらバカにされたり、辞めろと言われたりするかもしれない。

それでも、書き続けた乱歩。

そこには、確かに、金がある。

が、それだけではないはずだ。

デビューの年に、首都直下型地震で街が丸焼けになり、その後の世界恐慌…

乱歩に渡された小銭のひとつ、ひとつには、熱い思いが込められていたに違いない。


それを受け、明日を楽しみにする人達に、明るい…それは小さな灯火だとしても…明るい光を供給し続けるのは、大変だと思う。

そして、誰もまだ、やったことの無い、見たことのない世界観を…作り出す勇気。

もし、本当に江戸川乱歩がクトゥルフ神話に挑戦しようと考えていたとしたら…それは、それで感動的ですごい気がしてきた。


「よく考えてみると良い。彼の名前を

○ 江戸川乱歩

× 湖南渡異留(こなんどいる)

彼は、推理作家ドイルではなく、エドガーを選んだ男だ。そう、ラブクラフトが尊敬したエドガー・アラン・ポーをね。」

克也がなんだが格好よさげな台詞を決める。


なんか、もう、これで良い気もしてきた。

夜も更け、なんだか、気持ちよく、昭和初期と言う時代が胸に込み上げてきた。


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