番外悪霊31
♪ぷろじぇくと、Chu…Chu
プロジェクト…ふふっ…
脳内で、80年大風味の肩だしワンピースの少女が空を飛んでいた。
が、断じて違う…
『スターゲート・プロジェクト』は、80年代のラノベでもない!
これは、アメリカの偉い人達が本気で立ち上げた計画…
超能力を持つスパイ育成計画の事だ。
「スターゲート・プロジェクト…そうだね。そんな計画があったんだね。」
私の脳裏に夏の緊急スペシャルが回る。
子供の私には、サイコキネシス・テレパシーなんかは、魔法と同じ異世界の話だった。
テレビでは、能力者が決まってこう言った。
「誰もがみな、超能力を持っているんだ。」と。
でも、あきっぽい私には、スプーンを10分も眺めて曲げるような根性はなく、
学校は給食のスプーンを大切に使えと説教をした。
給食の時間、スプーンを曲げる奴は1人はいたし、ほとんど、力業で曲げていたから、給食のスプーンは、首の辺りが変に曲がったものがあった。
「そうだ。1970年代に軍が本気で調べたのだから、その40年前なら、半信半疑だとしても、十分、推理小説で使えたに違いない。」
克也の説明を…私は受け入れられずにいる。
70年代、ペンタゴンの人が何を信じていたとしても、日本のミステリファンが気に入らなきゃ、金にならない。
「でも、乱歩は商業作家だよ?金を稼げなきゃ、仕方ないのに、こんな馬鹿げた話を考えたりするかな?」私は自然に眉がよるのを止められなかった。
「いや、商業作家だからこそ、一本、踏み込む勇気が問われたんじゃ無いだろうか?」
克也の台詞が昭和の特撮風味になってくる。
なんか、面倒くさいなぁ…
「1歩踏み込むって…それ、剛じゃあるまいし、やってから、『いい気になってた』と自覚する…そんな間抜けな乱歩嫌だよ。」
口が尖るのが分かるが、直せない。
大体、そんな間抜けな話を投稿したら、私が感想欄で色々言われるじゃないか!
ふて腐れる私に、克也は呆れたように溜め息を…特大の溜め息を吐き出す。
「希和さんと江戸川乱歩を比べる方が失礼だと思うぞ。
それに、君は、ミステリーの視点が狭い。」
「悪かったわね。」
「そう言う意味ではない。江戸川乱歩は、日本ではじめて推理小説を書いた商業作家だろ?」
「うん。」
「10年目、再び古巣に帰って書くなら、誰も見たことの無い刺激的な物語を考えた可能性が考えられる。」
克也はニヤリと笑うが、何がおかしいのか理解が出来なかった。
「だからって、超能力ものなんて書く?あれば70年代流行った特撮映画とかで…」
と、ここで、言葉が止まる…そう…70年代、江戸川乱歩の作品は、テレビドラマ化されている…特撮を使った派手なドラマになって、明智小五郎はブラウン管の向こうで戦っていたではないか…
「でも、超能力ものなんて…記憶に無いわ。奇術師や催眠術は確かに記憶にあるけれど。」
私のボヤきに克也はニヒルに答えた。
「『悪霊』の一件で、諦めたのかもしれないだろ?
1930年代…ドイルはこの世の人ではなくなり、時代は変わる。
トレンドはスペースオペラとSFへと流れて行くんだよ。」
「スペース…オペラ…」
頭が混乱してきた。
そんな私に克也は補足するようにこう言った。
「そうだ。1930年代は皆、宇宙に興味を持ち始める。 1934年と言えば、『フラッシュ・ゴードン』がアメリカの新聞で漫画の連載が始まるんだよ。
大衆小説に特化した江戸川乱歩なら、この新しいムーブメントに乗ろうとした可能性がある。」
「うそっ!『フラッシュ・ゴードン』って、そんなに古い作品だった!?」
目まぐるしく増える情報の中、脳内に流れる『フラッシュ・ゴードンのテーマ』を聞きながら、私はスマホを検索する。
そんな…『フラッシュ・ゴードン』が戦前に生まれた作品なんて!信じられないわっ。




