番外悪霊26
「別に、こじつけだって、なんだって良いのよ。私は物語を引っ掻き回すトリックスターなんだから。」
山臥にマウントをとってみて、始めて、推理小説の間違い役の重要さに気がついた。
そう、正解を告げる探偵は、あらすじでは無口になるしかない。
物語を面白く、客を引き寄せる…あらすじや宣伝は、トリックスターの独壇場…
正解する必要はない…
必要なのは、読者を心地よく混乱させる腕。
私は、とにかく、正解ばかりを考えて、この役をおろそかにしていた。
こうして、自分でやってみて、この役の重要性が染みてくる。
「いや、それにしたって…イギリスの出版が1934年でしょ?1933年11月から発表された日本の話にパクリ疑惑はかけないでしょ?」
山臥、再びのマジレス。
「そうね…でも、『新青年』は、外国作品の翻訳から始まったらしいから、情報は早かったと思うわ。
それに、女性が切り傷を受けて、密室で殺されるとか…言いがかりでも、ファンとかが騒いだら面倒になるわ。」
私も、言い訳が苦しいと考えながら答える。
「いや、『オリエント急行殺人事件』の被害者は男だ。」
克也が速攻で訂正をいれ、私は慌てて調べる。
被害者のラチェットは、60代の男だった…
私は妄想の担当を思い、心のなかで「ごめん。」と呟きながら、もしかしたら、こんな誤解もあったかもしれないな。とか、考えた。
「そうなんだ。でも、リンドバーグの事件をモデルに、こんな話を同時に思い付いたとしたら、何か、原因があったのかしら?」
私はふと、ドイルと霊媒の話を思い出していた。
細かい切り傷とかは、悪魔払いとかで良くあるエピソードじゃ無いだろうか?
「さあ。乱歩はリンドバーグ愛児誘拐事件をモデルにしたとは語ってないからな。」
克也は他人事のようにあっさりとそう言った。
「はぁ?あんたが、リンドバーグを探したんでしょ?」
私は少し不満になりながら言った。
「それは1つの可能性だ。それに、『悪霊』では、ドイルと霊媒について書いてあるんだろ?」
克也に言われてシブシブ認める。
「それを言ったら、今までの…オリエント急行の話はなんだったのよっ。」
私は恨み言をぶつける。
もう、夏休みも終わってしまう…へんな寄り道は必要ない。
「いや、別に、アイディアは、1つに限らないだろ?リンドバーグの事件をベースに、日本人の琴線に触れるエピソードも必要になるだろうし。」
克也はそう言って、フリードリンクを取りに立ち上がった。




