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番外悪霊23

「乱歩の『悪霊』の密室殺人にはトリックが存在した。これをXとしよう。」

克也は自慢げにそう言った。

「エックス…」

私は思わずメモ帳を取り出した。

克也(このひと)、とにかく、突拍子もない表現だけは天才的なんだ。


分からない密室殺人をXって…まるで、方程式でも解くような語り草じゃないか!


と、興奮する私から、克也はペンとノートを借りて何やら書き始める。


よく見れば、今日の克也は何となくレトロコス。

さずがに遠方の神社に参拝するのに、作業着は着ないだろうけど…

品の良さそうな茶色のストレートパンツに白のシャツと、バーテンダーのような黒系のベストにハンチング帽。

古着をアレンジしたようで、まるで、過去からやって来た人間にも見える。


フリマの売れ残りかな…

一瞬、克也の衣装の謎に引き込まれそうになった。が、克也がミステリーの方程式を展開し出して気を取り直す。


なにしろ、乱歩が筆を止めたトリックを克也が解決すると言うのだから、見ものだ。


が、そんな私に克也は呆れた吐息を漏らす。


「密室殺人のトリック?そんなもの、俺にかけるわけもない。」

「え?」

あんなに偉そうに語って、それはないでしょ?と、思わず言いそうになる。

「卯月さんが言い出したことだろ?トリックの答えなんて、誰が書いても読者は納得なんてしないんだと。あの、横溝正史が書いたとしても二次小説にしかならないと。」

「そうだね…。」

やぶ蛇の問いかけにギャフンとする。

空気が整ったところで、克也は静かに話始めた。


「『悪霊』のトリックについては、今更、誰が発表しても推測に過ぎない。

前に話した通り、何があったか、二通りの仮説を立て、読者が推理する…

この方が面白いと思うんだ。」

克也の言葉に説得力を感じる。

「いや、背景なら、既にわかっているだろ?

あれだけ有名な作家の作品なんだから、未完の理由なんて。」

酔っぱらいの山臥がマジレスした。


一瞬、盛り上がった雰囲気が萎んだ…が、素面(しらふ)の克也が上から目線の『ふっ』を投げる。


「山臥さん…マスコミの公式見解が全て真実とは限らないのは知ってるでしょ?」


一瞬、私は、新しい劇を見ている様な不思議な気持ちになる。


そう、ファミレスを舞台に、仕込まれた役者が演じる…

克也の大袈裟なジェスチャーと台詞は、そんな雰囲気を漂わせる。


それにのまれるように山臥もニヒルな笑いで答える。

「確かに、な。」


はぁ?と、ツッコミを入れたくなるような、見事な山臥の渋い顔に混乱する。

悔しいが、山臥、本気のポージングは、昭和の煙草のCMばりの渋さがある。

混乱する私に、克也は話を続けた。


「Xが存在したとしよう。つまり、江戸川乱歩は、10年ぶりに古巣で本気の密室殺人を考え、発表しようと考えたと仮定する。

すると、次の方程式が成り立つ。」


克也はサラサラと私のノートに落書きを始めた。


「卯月さん、君なら、どんな風にプロットを考える?」

き、君?(°∇°;)


言われなれない人称に混乱した。

「うん…そうだね。トリックなんて考えた事無いからなぁ…」

突然の質問に混乱する。

「では、江戸川乱歩ならどうすると思う?」

克也に聞かれて乱歩を想像する…


10年ぶりに、自分の才能を発掘してくれた雑誌からの依頼。

しかも、一番、雑誌が力を入れてくる正月を挟んだ号…


「まずは、売りたいと考えるわ。だから、読者の注目を集めたいと考える。」 私の頭の中で、乱歩が嬉しそうに自室の資料を眺めだす。

「そうだな。この時代、売れたいなら、もっとも人が関心を持つ実在の事件をモデルにするんじゃないかな?」

「そうね…」

と、ぼやきながら、映画『悪魔が来たりて笛をふく』を思い出していた。

この映画は、横溝正史の原作の金田一耕助シリーズで、天銀堂事件と言う、実際にあった事件をベースに作られていた。


家族で映画をテレビで見ながら、父がそれについて語るのを感心しながら聞いていた事を思い出した。


ネットもテレビも無い時代、様々な状況を分かりやすく、興味深く見せるには、皆がよく知り、興味のあるエピソードを混ぜた方がいいに違いない。


「1932年の主な事件を調べてみる。」

克也の最新スマホが登場する。


1932年の主な出来事から、克也の指が止まる。


そこには、なんとなく記憶に残る大事件があった。

リンドバーグ愛児誘拐事件である。


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