番外悪霊21
『ソマ橋』を通じて作られた乱歩と正史の完全犯罪…
本当に、『本陣殺人事件』が、『悪霊』への返答だとしたら…なかなか面白いんだけど、実際に調べたら、がっかりするんだろうな…
私は、ネガティブな事を心地よく考えた。
この話は使えない。
実在する人物で、多分、事実とは違う話だから。
でも、これをモデルに小説は作り出せる。
私は、新しい物語の夢を見る。
本当に、真実を調べられたなら、主人公は大賞に入選し、定年で嘱託の出版社の資料係と知り合いになり、日本の名作を探る話とか作ってみたいものだ。
「まあ、ありがとう。面白かったわ。
相変わらず、人気者にはなれないだろうけど、誰かの心に残る作品を作れそうだよ。」
私は山臥に笑いかける。
山臥はもの寂しそうに残り1個の唐揚げを口にし、それから、
「もう一杯いいかな?勿論、俺が出すから。」
と、懇願する。
「ダメよ。遅くなったし、コーヒーでも飲んで酔いを醒ましなよ。」
私の顔を綺麗な中年の苦笑で受ける。
「コーヒーで酔い醒ましなんて、無粋だぜ。
小説家なら、もうちょっと、気の利いた台詞を考えないとな。」
山臥の言葉を私も苦笑で流した。
「いいのよ。小説は小説。アンタは現実で、私、アンタを送り届けないといけないんだから。」
私の渋い顔を見て、山臥はオーバーにガッカリする。
「あと、2時間…13日が終わるまで、家には帰れないんだ。」
山臥の台詞が重暗い…ホラーの空気を含んで行く。
昔、私の母もそんな事を言ってた。
13日は帰る家のない霊が、帰宅をする人にとりつくと。
「それ、県外帰省者の話でしょ?
そんな事、言ってたら、盆踊り大会なんて出来ないじゃない。」
私の地元では、13日に盆踊りがあるのだ。
山臥は、私を見ながら、ふて腐れる子供のようにボヤく。
「だから…俺は幽霊に好かれる体質なんだよ…」
「女の幽霊限定の、ね。」
ため息が出る。
少しシラケた間があり、私はフリードリンクを取りに行こうと立ち上がろうとした瞬間、入り口に懐かしいハンチング帽を被った小柄な男が視界に入る。
克也だ…
克也は私を見つけると、親しそうにこちらにやって来た。
「元気そうだね、卯月さん。」
物腰の軽い、克也の声に思わず笑顔になる。
「久しぶり。車、大丈夫?」
私の質問に、克也は『そうなんだよ!』と言わんばかりの顔で急々と山臥の隣に座った。
それから、山臥の方を見て、
「憑いてますよ。」
と、言いながら、肩を軽く触り、そして、私の質問に、早口で答える。
「いやぁ…なんか、凄く悪い感じがするから、家に帰りたくなくてね。
日付が変わるまで、一緒に居ようと思ったんだよ。」




