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番外悪霊17

推理小説の場合、間違った推理を披露し、読者をミスリードしたり、楽しませる前座がいる。

私は前座をかって出たんだから、正解しなくても問題はない。


大体、乱歩先生や横溝先生の出版秘話なんて、関係者以外わかるわけもない。

だから、ここは好きに書こう。

駄目なのは、乱歩、横溝両ファンが不快に思う結論だけれど…(まあ、これはこれで、外野にヒーローが出来るだけで、それほど問題にはならないだろうが。)

乱歩先生と横溝先生が仲良しなのはファンじゃなくとも知る人は多い。

横溝正史の代表作…金田一シリーズの金田一探偵の姿は、江戸川乱歩の明智小五郎の始めのスタイルをオマージュしたとか言われてる。


だから、フリーになった年に、肺病を患った友人の為に、何か、努力をした…友情物語を発表して、それが違っていたとして、ファンの人達からバカにされても、激怒はされないと思う。


とは、いえ、私のキャラクターは、どことなく、間抜けでユーモラスになりやすいので気を付けないといけない…


が、まあ、私の想像の江戸川乱歩は、引き受けたけど面倒くさがっていた。

なんとか、小説家として食べて行けるようになり、ドイルのような、語り継がれるトリックを書けなくても、それなりに自分のスタイルを確立し、押しも押されぬミステリー作家の地位を手にした。


10年目…ここに来て、本格推理ものを書けなんて!! 出来るんか、俺?


今度の乱歩は弱気である。

まあ、我々に例えるなら、ネット発異世界チートなんちゃら系で書籍化し、なんか、コミカライズでヒットして、書籍一本で稼げるようになった10年目。

ここで、夕方の地上波放送用の本格ファンタジーを作れと言われるものだろうか…


こんな例えにすると、乱歩の面倒くささがグッサリと胸をさす。


R15の少し色気のあるヒロイン頼みにテンプレをうまく踏みながら、読者に感想欄でセールスしながら作り出すファンタジーは、無垢な少年少女を相手にしたような、透明な輝きなんてものとは真逆にある。

現実世界でうまくゆかなかった…剛のようなオッサンの嘆きと恥ずかしくなるような夢を詰め込んだ世界をネットでボヤくのだもの。

剛がアーサー王になれないように、

乱歩先生だって、いきなり急ぎ仕事の密室殺人なんて面倒くさいに違いない。


ファンタジー読者でも、様々な作法を重んじる人がいるが、

ドイルの没後3年…ミステリーファンの追撃はそれ以上な気がする。


でも、乱歩先生は、受けないわけにはいかなかった。

それは、年末からの古巣の雑誌の連載を任された友人の横溝正史先生が、体調不良で倒れたのだから。


思えば…ネットどころか、テレビが一家に一台の少女時代。

私の時代だって、雑誌の正月の特別号には胸をときめかせ、何を買おうか、数ヵ月前から金を貯めつつ夢を見ていたんだから、昭和のはじめなら、それ以上だろう。


帰省のお土産に雑誌を買う人も多かったろうし、

青年ものなら、喫茶店などで、様々な雑誌を持ちより、品評会や討論もされたろう。


年の瀬の新企画…これは、絶対に他社に負けるわけにはゆかなかったはずだ。

私ですら、サイトのイベントのネタは半年前から考える…考えは、する。


で、テーマが違って四苦八苦し、トミノの地獄でもがいてる(T^T)


それを…いきなり、11月に書けって…それはもう、ベルフェゴールの追及に他ならない。


そう、いつも書くような異世界ファンタジーなら、なんとかなっても、

子供に語る本格ファンタジーとか言われたら、それは全く別物だ。


異世界といったって、こっちはネットやゲームがベースだけど、

本格ファンタジーと言われたら、ベースは伝説や歴史。

現実世界に近いところに異世界があり、種族やモンスターの知識も豊富になきゃ書けない。


推理小説だって、オチを楽しむ心理サスペンスは、中間の読者を翻弄する、普段使わないエロい単語や、欲、暴力や恐怖を売りにする。読者だって、美しい少女の事を気にしても、細かい設定ミスにはおおらかだ。

が、密室殺人は、もう、理論とか、間取りとか…読者の感情を翻弄してなんとかはならないし、

このての話が好きな読者は、冷静に文章の現場を見取り図にしたり、デパートの開店状況を調べたりするんだもん。


考えれば…凄い、負け戦感がする。


でも、私の乱歩先生は、受けることにした。

なぜなら、ここで、体調不良の横溝先生代わりを勤められなければ、フリーの横溝先生の作家人生は危うくなる。


そう、この頃、横溝正史の名前はそれほど、社会に轟いては居なかった。


金田一探偵が生まれるのは、まだまだ先の話なのだ。



この頃、デビュー当時に世界を患わせたスペイン風邪はそれほどでもなくなったが、肺病が流行っていた。

まさか…ただの風邪だよ。

横溝君が元気になるまで、彼の居場所を守れればいいんだ。


私の乱歩先生は考える。

この短い期間で、本格ミステリーなんて練り上げる時間はない。

年末にふさわしい、華やかな文字やキャラを作り、それらしい事をさせる。


私は、こんなとき、作中作者を使う。

作者が物語に関与したり、現実の話を持ち出すことをメタと言うそうだが、それを使う。


世界を2重にすることで、もとの話が破綻しても、作者の所でまとめられる。


だから、私は、『悪霊』を読んだとき、手紙文と作者の登場に、これはブレーカー機能だと思った。


手紙にかかれている内容は、本当か嘘かは作者の気分で変えられる。

もし、適当に書いて、密室に失敗しても、

この手紙を持ってきた男と作者の関係で回収できるからだ。


手紙を持ってきた男は泥棒かもしれないし、

作中作者の行動を操りたい…

もしくは、誰かを庇って欲しいと考えている…嘘の手紙かもしれない。


それとも…本当にオカルト路線でオチが決まったのかもしれない。


とにかく、メタ視点で何かを考えていたから、進一の手紙の内容は適当…そう、『脱け殻同然の文章を羅列』していたのかもしれない…


私の乱歩に、横溝先生の手紙の束をもたせる。


長い時をミステリーについて語り合った熱い、ミステリー談義の手紙文を…


ドイルの翻訳の仕事を貰った話し、それが、まさかのオカルトもので、翻訳に苦労した話。

ホームズとミステリーについて書いてある手紙を見ながら、乱歩は話を書き始める。


大丈夫。最後はあっと驚く展開で読者を煙にまく。

きっとうまく行く。

そして、雑誌の売り上げに弾みをつけて、年度始めの雑誌の一番始めの場所を横溝君に受け渡そう。


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