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番外悪霊15

「これは…神からの警告だな。」

克也のメールの内容に山臥がどやる。

「警告って…」

とは言ったものの、その後の克也の長文メールを思い出すと不安になる。


神社に続く林道で、何の障害物もなくパンクって…

そこから、ゆっくり走行するから、帰りが遅くなっているらしい。

「ああ、俺、わりとそうゆうの信じてるんだ。死にそうな人間の暗い影が見えるって言っただろ?」

と、人が変わったように落ち着いて話し、従業員を呼び止めてビールを追加注文する。


黒い影…


体が弱った人間に影のような暗い部分が見えるとか…そんな事象が流行り始めたのは、いつの頃だったか…

私も若ければワクワクするところだけれど、子供時代、オーラと呼ばれる何かがそれを知らせる話が好きだったので、己の知識が服のデザインのように古びたことに気がついて寂しくなる。


「でも、交通事故とかに遭ったわけじゃないし、神社で不遜な事をしたかどうかは不明だし、偶然でしょ?」

私は、自分の考えを山臥に押し付けて話題を変えようと試みる。


そう、夏休みは短い。

早く、『悪霊』のホラーを作り始めなければ!


「まあ…人は、守護霊に守られているし、神罰とか、呪いなんて、そう簡単には発動しないよ。」

「のろい…(-"-;)」

不気味な雰囲気が辺りに漂う。

「今日は13日…地獄の蓋が開くからね。」

やけに嬉しそうな山臥が怖い。

「地獄の蓋…ねえ。そう言えば、キリスト教は基本、幽霊も生まれ変わりも否定されてるんだよね?」

私は、『悪霊』のオカルト部分を思い出していた。


江戸川乱歩が作る推理小説なんだから、オカルト部分が物足りないとホラー目線で言っても仕方ないのかもしれないが、正直少し物足りない。


「うーん…そういうの、現在(いま)、あんま、関係ないかな…そっち系のヒト」


一昔前の業界のトレンドみたいだな…(--;)

トレンディな山臥に絶句してると山臥は続けた。


「なんか、幽霊は、良く見るんだよ…。特に、女がさぁ…俺、女好きする顔だろ?だから、目立っちゃってね。」

山臥は、怪談なのか、自慢話なのか分からないノリで語る。

「そうなんだ…」

と、言いつつ、この愉快な怪談を小説のネタに考える私。

山臥は、まともに聞いてる私に気を良くして話を続ける。

「こうして…飲んでると寄ってくるんだ。酔うと、幽霊が見えやすくなるんだぜ。」

山臥はどやるが、私はとうとう笑いだす。

「それ、ただの酔っぱらいじゃん。女性の幽霊も願望でしょ?」

私の反論に山臥は少し困った顔で、私の右端を薄ら笑いで見つめる。

「そうだといいんだけどね。」

と、ボヤいた。


酒を飲むと霊が見えやすくなる…これについては、後にオカルトエッセイで似たような記事を見かけたから、嘘か本当か…真偽は不明だ。

古今東西、ご先祖様の霊との交流の歴史はある。


日本では、口寄せと言われるが、

西洋では霊に何かを聞くことをネクロマンシーと言うらしい。


ドイルや乱歩の話す降霊会は、近代に作られた形式のもので、霊の他に、催眠術なども混ざっているようだった。


『悪霊』の降霊会のシーンは、丸テーブルを囲んで人が座るが、その輪から外れたところにいる、霊媒が霊を呼ぶ…

なんとも和洋折衷な会だ。


まあ、作家になってそれは理解できる。

乱歩が物語を売りたいのは日本人。

若い男性のインテリ系の読者だ。

だから、少しエロく、若い娘が登場し、なんとなく、読者が霊を呼び出す様を緊張感をもって楽しませなければならない。


間違っても、酔っぱらって、自分の顔を自慢しながら、霊とはいえ、モテ自慢なんてやっちゃいけない。

「ドイル…ね。そう言えば、ドイルの作品は、著作権が切れてないものもあるから気を付けないといけないらしいよ。」

山臥は急にまともな話を始めた。

「1927年の作品がそうらしいね。」

気の入らない返事をしながら、横溝先生を思い出していた。


『悪霊』では、降霊会には色々あって、トリックもあるが、本物もあるから、ドイルも信じた…みたいな説明がある。


この説明に、私は、横溝先生の翻訳本の売れ行きを願う乱歩先生を思ってしまう。


やはり、11月には、横溝先生の体調が良くなかったのだろうか?


『脱け殻同然の文章を羅列するに堪えられません』


この言葉…本当に何も考えないで話を作り始めたのだろうか?


ふと、元々、枠を貰っていたのは横溝先生では無いかと疑った。


ある程度、横溝先生と担当でプロットが出来上がった所で体調不良になったとしたら?


ネットを調べた…

横溝先生は、1934年7月に肺病でサナトリウムに行かれた。


肺病…肺結核は、長患いだと聞いたことがある。

仕事をやめ、フリーになった横溝先生は、無理をして仕事を貰おうとしていたのでは無いだろうか?


『悪霊』の手紙の形式。

作中の小説家が、自分が原稿料を貰う権利がない…みたいな台詞を言うのも繋がってくる!


そんな雰囲気でもう一度『悪霊』を読み返してみようか…


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