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番外悪霊8

脱線してる…

なんか、凄く、予定と違う(>_<。)


なんだろう?剛と話してるからなのか?

これは一万字程度の番外のはずだったのに…


私は頭を抱える。

が、剛は悠々と昼の青い夏の空を見てボヤけてる。

何が悪かったのか?


二次小説には、色々な話の進め方がある。

終わりを目指して、普通に話を継いで行く方法。


仲間に向けて、自分達が納得できるエンディングを探して行く方法。


でも、私が目指したのは、未完の物語を考察し、新たな謎を提示する方法だ。


「ジュース、うまいね。」

剛が嬉しそうに笑う。

ファミレスのフリードリンクは、その場で様々な飲み物とミックスし、オリジナルジュースが作れるから、一時期、皆ではまったことがある。


剛は、オレンジジュースに炭酸を混ぜるのが好きだった。


「うん。それにしても…乱歩先生って、どうやって推理小説を書いてたんだろう?」

私は深くため息をつく。


私も、ミステリーなんて書く前は、プロットなんて皆、同じように考えるんだと思っていた。

「普通に、机向かって、思いつくまま書いたんじゃないの?」

剛はポテトをつまみ、他人事のように呟く。


「そんなんじゃ、上手く物語は進まないんだよ。

編み物だって、編み図があって、減らしたり、増やしたり、模様をつけなきゃ綺麗に出来ないでしょ?」

「うん。あれ、難しいよね(-"-;)」

剛、不器用だが、心は編み物男子なのだ。

「物語だってそうよ。話はじめから、キャラ紹介。事件。展開、結末…。

そうよ!アンタの好きな二時間ドラマだって、大体、22時になると、犯人がわかりはじめて、30分には犯人が追い詰められるじゃない?」

「そうだね。あれ、面白いよね。」

剛は、自分の好きな二時間ドラマをスマホで調べ始める。


「そう…普通、事件の全容を考えてから、推理小説って書くものだって思っていたわ。」

私は、頭の中の違和感を言葉にする。


推理小説は、謎ものだから、読者は犯人を知らないけれど、作者は事件を起こしてから、それを探偵に解決させる。


だから、一番に作られるキャラクターは犯人で、次に被害者になるはずで、犯人が決められてない推理小説なんて、普通はありえない…んじゃなかろうか?


だと、したら、あの乱歩先生の台詞の意味するものは…なんだろう?


『脱け殻同然の文章を羅列するに堪えられません』



犯人が決まっているなら、中身はあったはずなんだ。

でも、脱け殻…つまり、犯人の決まらない話を作っていた…と、言うことなんだろうか?



遠い昔、私も推理小説を書こうとした事がある。

当時、ドラマ界では、連続殺人事件が流行していたので、とにかく、なにも考えずに人殺しの方法を考えては書いていた。


10代の白人の少女が探偵で、そこに、同じく白人の金持ちの少女がアシスタント…と、言うか、事件を持ってくる話だった。


私にとって、殺人事件なんて、どうでもよかったんだと思う。

少女の私は、見た事の無い西洋のセレブ生活に憧れ、それを空想したかっただけなのだから。


美しい白亜の城。

エーゲ海のような煌めく海。

なんか、異国の美男美女。


それらに囲まれて、空想したかっただけなのだから。


私は、美しいセレブ生活に夢を抱きながら、それらを壊す…怪物を作り上げる。

当時、島の屋敷に止められて、一人一人と殺されるのがテンプレだった。


だから、私も、それに従い、殺しやすく、絵になりそうな人物から殺していった。

動機とか、人物関係とか、そこまで考える余裕はなかった。


派手で、凄い殺し方を考えるだけで精一杯だったから。


今、考えると…あれは、推理小説と言うより、スプラッタ・ホラーだった気がするが、まあ、どちらにしても最後は皆、死んでしまうから、気にしなくていい。


探偵を抜かして、最後まで生き残った人物が犯人なのだから。


「楽しそうだね。」

剛に言われて笑ってしまう。

「うん。人殺しの仕方を考えるのって面白いんだよ。」

私の笑顔を剛は不気味そうに見つめる。

「人殺しなんて…楽しいものじゃないよ。おかしいよ、卯月さん!」

剛、ビビりながら私に説教する。


そう、普通、人殺しの方法を考えてるなんて言ったら、こんな反応が返ってくる。

「推理小説書くんだから、仕方ないじゃない。あんただって、二時間ドラマ好きじゃない。」

私の言葉に剛は、はっとして、次に安心したように表情を緩めた。

「なーんだ。」

剛は、急に私から興味を無くして、タブレットのメニューをさわり始める。



まあ、普通は、この反応なのだ。


現実の殺人と小説用の殺人は違う。

人を殺す…と言う行為も、物語の場合、何かの象徴なのだ。


たとえば、意地悪な王を殺す…と、言うのも、悪い法則を潰して新しく作り直す…と、心の中では理解される…


なんて、思われていた時代だった。

でも…今でも、それが通用してるのかは、私には分からなくなっている。


そうして、私の最初で最後の連続殺人は、国語の先生の大爆笑と共に幕を閉じた。


不思議なことに、殺人事件やホラーは、角度を変えると喜劇になるのだ。


作中、セレブでインテリ風味にするために、殺人の前にベートーベンの『運命』が、どこからともなく鳴り響き、そして、令嬢が首吊り死体で見つかるエピソードをいれた。後に私も、このシーンで爆笑した。


当時、誰もいない部屋で音楽を鳴らすのは、結構、難易度がある行為だった。

タイマー機能もほぼなく、スマートスピーカーも無い時代、必死に人の居ない部屋で音楽を鳴らそうと考える自分の苦悩や、

いくら、クラッシックでも、ジャジャジャジャーン…なんて、ベートーベンが流れてきたら、それは喜劇だ。

が、少女の私には、音楽の時間しかクラッシックに触れる機会は無かったし、あったとしても、歌謡曲を聴く時間に潰されていった。

だから、ベートーベンくらいしか、それっぽいBGMを思い浮かべられなかったのだ。


角度を変えたら喜劇になる…

乱歩先生も…『悪霊』で笑いのツボでも見つけてしまったのだろうか?


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