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矢絣


 「本当に面倒だと思った。」

と言う言葉で私は語った。


 くだんの小説『幽霊作家』は時代小説でエントリーした。私はとにかく何かの公募に応募しながら作品を書くことにしてる。

 そのほうが完結率も高いし、期限を意識できるからだ。

 で、今回もそうした。その公募には独自のルールがある。タイムマシーンを使ってはいけないと言うことだ。

 近年、WEB小説の時代ものは、現代人がタイムスリップして昔の世界で無双するものが多くて、それを許すと、ほぼ、その系統がランキングを占めるのだから仕方ない。

 それは私も納得だった。が、だ、

「SFって、1920年代にはもう、世界的に認知されたジャンルだったらしいのよ。100年経ってるのよっ。1世紀よ!もう、こうなると、もう、レトロなわけよ。大正ロマンなのよっ。わかる?この時代のミステリを書いてると出てくるのよ(T-T)」

私は叫んだ。

 私はストーリを一度考えてから、回想するように話を書き始める。で、会話文はその時点でキャラクターを演じるように書いてゆく。

 だから、自分で歯止めが効かない時がある。

 向井というキャラクターの会話の時は向井の目線で話を書いている。無意識なのでたまに間違う時があるが、まあ、おまかにはそうなんだ。

 で、ものすごく考えて話を作っても、この時点で変な方向に流れる時がある。


 「江戸川乱歩の『悪霊』で、矢絣の怪しい女が登場するんだけれど、殺人事項に現場で目撃され、交霊界のリーダーの黒川博士の家に矢絣の服があったとか、そんなことが書かれていたら、黒川博士の女装趣味とか、そういうの疑うじゃない?」

私の必死の説明を山臥は鼻で笑ってかわした。

「そうかな?」

「そうでしょ?普通。江戸川乱歩のミステリーよ?時空を越えるなんて考えないでしょ?矢絣なんて、女学生の衣装じゃない。JKの衣装に興味を持って自ら着たがる変態が頭に浮かぶじゃないのっ。」

私は頭に血が昇っていた。

「でも、矢絣の…JK衣装の変態姿で黒川博士はどうやって殺人をするんだい?

大体、被害者の曽根子にJKにコスプレする意味がわからないよ。二人はそういう関係なの?そうだとしても、そんなJKコスで町を歩いて殺人なんかするのかい?」

山臥の指摘は的確だった。矢絣の女はたばこ屋の女将さんに目撃されてる。言い返す言葉がない。

「そうね。でも、作者の乱歩は読者をそっちに誘導したかったと思うわ。なんか黒川博士は女のような美形で交霊会の時に踵を怪我してたり、意味深だったもん。」

黒川博士、美形だっけ?少し心配だったがまあ、そこはどうでもいいのでスルーする。

「だからって、なんで、時空を越えるんだ?」

山臥は不思議そうに私を見る。

「突然、気が付いたんだもん。矢絣が流行っている頃に日本の心霊学が華やいだことを。」

ああ、そう、私は書きながら、向井の思考で矢絣を考えた。

19世紀末から1920年代にかけて、日本でも心霊や心理学、催眠いついて研修がされた。そして、その時代には、名だたるサイキッカーに囲まれて福来博士がいるのだ。


 超能力は10代の頃に発揮される場合が多い。矢絣はその象徴だとしたら?

 そう考え始めると、物語は全く違う様相を現してくるんだから頭が痛い。


「だからって、時空を超えてサイキッカーがやってきて殺人をするの?」

山臥の言葉に私は混乱した。

「…そうよね、乱歩先生、何考えてこの話考えたんだろう(T-T)」

私は話しながらますますこんがらかる気持ちを持て余していた。


  

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