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グランドクロス


 私は所持するノストラダムスの予言本を調べた。

 そして、本当に見つけた。

 惑星直列と、ハレー彗星にグランドクロス。そして、エゼキエル書にまで盛り上げた本を。

 そこには、第三次世界大戦とソ連、中東の争いについて書いてあった。


 初めは驚愕したが、まあ、あの頃はテンプレだったから、大概、こんなことは書いてあった。

 『黙示録』という文章を参考にしてるから、どうりても聖書の聖地であるエルサレムの話になるし、冷戦時代なので、敵はどうしたってロシアになってしまう。まさか、21世紀を前に崩壊するなんて、お釈迦様でもノストラダムスでも分からなかったんだから仕方ない。


 とはいえ、こうも克也の話題を守られていると、この本がネタ本ではないかと思えてきた。

 「姐さん、地方の図書館は遠距離からの取り寄せも出来るんですぜ。克也さんは差し詰め、そんな方法を取られたんじゃありやせんかね?」

予言の本の精が少しマウントをとりながら慰めてくれた。

「ん、そうかもね。でも、奴は、日本の歴史を調べていたみたいなんだよ。なんで、こんな本を、って、ごめん。

 いや、カテ違いの本なんてワザワザ取り寄せてまで読んだんだろう?」

なんだか、不気味な気がする。あいつは何を考えているのか、わからない時がある。

「こんな本、だからじゃあ、ありませんかね?それでも、あっし達もそろそろレア物になってきましたし。」

本の精がいう。

「確かに、レアだよ。あんたらは。」

私も納得する。平成も30年をすぎたのだ。それより昔の本である。

物神の伝説は色々あるけれど、30年で魂をもらえるという話を読んだ記憶がある。九十九神は99年だけれど、ものによっては悪い魂が宿らないように30年で供養するなんて物もあった気がする。

 これは、大工道具や農作器など、刃物関係の買い替えどきの話だと思うんだけれど、ネットで調べても出てこなかったので真実はわからない。

 が、それでも、長く人に愛された古本を見ていると、何か、そんな気持ちになる時はある。本当に、物の魂が宿っているように感じる時が。


 今回も、こんなに内容が一致する本がウチにあったことが、そして、それを知らせてくることが、なんだか不思議な気がする。


 「ま、あっし達のことは、今回は関係ありやせん。ここで問題なのは、惑星直列、いや、惑星パレード、の事だと思うんですよ。」

本の精は優雅にキセルを口に咥える。キセルを優雅に扱うのは、結構難しい。

「惑星直列?それがどうしたのよ!惑星直列もグランドクロスも、私、乗り切っちゃったわよ。パンデミックや地震、災害、不景気、バブル崩壊、でも、生きてるわ。もう、そんなものはいいのよ。」

私は叫んだ。叫びながら、それらを乗り越え名古屋にあと少しで届かなかった剛のことを思い出して悲しかった。そんな私を本の精は悲しげに見つめていた。

「まぁ、色々ありやすよ。姐さん。それに舎弟の話はあながち間違ってもないじゃありやせんか。」

そう本の精に言われて複雑になる。


ロシア戦う。中国サポートする。

米の値段がとんでも無いことになる。

でも、本から漂うようなデスシティ風味の世界観ではない。


「まあ、ね。それで、惑星がパレードすると何があるのよ。」

私が聞いた。すると、予言の本の精がニヤリと笑う。


 「姐さん、さっきの占いの旦那に説明を受けましたでしょ?惑星直列には一つの星座にまとまって集まる直列と、空いっぱいに横に広がってパレードするように並ぶ物があるって。」

「うん。」

「古来、人は星に歴史を刻んでいた。これは姐さんの子供の頃からの持論でしたね?」

と、言われて思い出す。

 予言の本当は子供の頃からの付き合いだ。

 様々な事を考えた。

 

父の危篤の時、病院にゆく道すがら空を見上げた。

『すべての男女は星である』 クロウリーの言葉を思い出しながら、私はその日の空を眺めていた。

 ほんの100年前までは、紙は貴重な資源だった。だから子供の落書きは地面に木の棒で描いたりした。

 自分史なんて残すことが出来るのは金持ちくらいだと思う。

 いや、私の父ですら、自分史なんて残してはいないし、私だってそうだ。


紙に仰々しく残さなくても、それでも、忘れたくないものは、何かと組み合わせて覚えておくのが効果的だ。

 だから、空の星に思い出をリンクする。

 たとえば、春分に、約2年ごとに赤く輝く火星に、12年で星座を巡るあの木星に。

 私はそう考えていた。おばあちゃんと歩いた夕暮れの空を思いながら。


 本の精霊が舎弟と呼ぶ本はグランドクロスを中心に展開する。

 1999年のグランドクロスは特別だ、と、その時はみんな信じていた。

 テレビに映る、漫画に描かれる、グランドクロスは、地球を中心に惑星が十字を描いていた。

 でも、月の星占いの本の精は教えてくれた。ホロスコープには観察者が見えない部分がある事を。

 観察できる片側に惑星が集まるパレードは、観察者が見られる、意識できるイベントなのだ。


 すべての惑星が、人々の意識の前に現れる。


 グランドクロスのあったあの時。私は何を夜空に見たのだろう?

 1999年8月。


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