訂正
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ここに来て、月の本の精は考え込んだ。
「これ間違っていますね。昼夜を決めるのは太陽の位置です。
ホロスコープも天体の影響を受けますから、太陽がいる場所に火があたります。」
あたり前のことを言われて赤面する。どうも、私は占い用のホロスコープの知識を間違って描いたようだった。
「太陽が左、ここでは西にいるときは明け方を。右に居る時は夕暮れを。
天頂にいると真昼。下にあるなら夜です。」
本の妖精の説明を黙って聞いていた。
「ねえ、じゃあ、上と下で分けて考えるのって、何?」
私の言葉に本の精は丁寧に教えたくれた。
どうも、真ん中を大地に人が観察できる上の半円部分は、占星術では表に出てくる性格とかで、地面の下の部分、夜に当たるのが潜在意識とか、隠れた性質とかそういう物らしかった。
ここで、ホロスコープを単純に天動説だけで考えていたことに気がついた。
星座の丸の部分を動かせば、確かに天動説だけれど、人のいる大地の方を回せば地動説でも考えられる。
真ん中の大地の下に地球とブラジルを意識すれば球体の地球。
自分が観察できない部分を意識しなければ、平面の地球でも考えられる。
自由な発想でカスタマイズ出来るんだと再確認した。
本の精は楽しそう話終わると、私を悲しそうみた。
「では、これでお別れです。私は前から貴女に謝りたいと思っていました。」
「え?何??」
不安が込み上げる。
「私の星占い。一つも当りませんでしたから。」
「え?そうだっけ?」
考える。彼を買ったのは小学生の時なので、何を占ったのか、忘れていた。
「はい。渚の海岸で、素敵な彼とのオープンカーのデートも、海外旅行の出来ませんでしたね。」
本の精は少し淋しそうだ。
「そんなもん、当たる方が難しいよ。」
なんとか本の精を慰めたかった。それに小学女児をオープンカーで迎えにくる男性なんて、今では犯罪だし、来なくてよかったと思っている。
「はい。全てを外してしまうことを悲しく思っていましたが、ここに来て、小説家になる夢だけは、なんとか叶えられそうで、そこに、私も参加が出来たことを本当に嬉しく思います。
本来なら、もっと昔に処分されても仕方のない私を、ここまでそばに置いてくださって、本当にありがとう。最期に、貴女にこれをプレゼン出来て本当によかった。」
本の精はそう言って、私の首にペンダントをかけてくれた。
丸いトップの部分には、三角形を使った六角形が書いてある。
「これを。この六角形のペンダントを物語に描けるのは、星と幾何の知識を伝える志がある者だけです。」
「き、幾何。」
なんだか面倒な展開に顔が曇る。幾何なんて、私。、得意じゃなし、面倒臭い。それにそんな志、私にはない。
「はい。三角を二つ使った、円に内接する六角形は特別なのです。」
本の精、ここでいきなり難しいワードをぶっ込んでくる。
「それが、どうしたの?」
不安になる。
「六角形だけが、円の半径を使って作れる図形だからです。この性質を使えばピンとヒモと鉛筆で正確な12の分割されたホロスコープが作れるのです。
円で描くホロスコープは、とても便利です。きっと、古代のフェニキア人や、ケルト人も使ったかもしれません。
単純な図形の場合、しっかりとした信念があれば物語に使うこ事も可能になります。
きっと、ユニークな物語が完成して、小説家になれますよ。
その姿を見られないのは残念ですが。」
本の精の言葉が胸をつく。
「私、そんな事、望んでないよ。私、占い、外れてもあなたが好きだった。
あなたを開くと、皆んな、幸せそうに恋の夢を見てたんだよ?
あの、綺麗な夢を、もう一度、一緒に見ようよ。
消えるなんて言わないでよ。
私ね、やっと設定が終わった作品があるんだ。異世界の恋愛ものなんだよ。
星占いも参考にしているの。もう一度、一緒に少女に夢を見せようよ。
消えるなんて言わないでよ。」
ああ、なんだろう。昔、女の子だけで恋占いをした事を思い出す。
きらやかな、素敵な夢だった。たとえ、それが束の間の夢であったとしても。
白馬の王子も、ロック歌手も私に求婚してこなかったけれど。
でも、正確な未来を指摘されるより、いい人生を歩めたと思う。そう、考えられる今に自分も悲しいけれど、でも、子供の頃くらい、お姫様の夢を見られたのは彼がいたからだ。
本の精は悲しそうに首を横に振った。
「いいえ。これは運命です。何十年もこうして、そばに置いてもらえる方が奇跡のような物なのですから。
最期に、貴女に思い出してもらえてよかった。」
本の精は儚げに笑う。胸が苦しくなるような、少女時代の夢を纏って彼は美しく微笑んでいた。
なんで、そんなことを言うのだろう?忘れていた甘い胸の痛みを抱えながら考えた。
そして、本の精霊の言葉に ハッとした。そして、捨てる本の段ボールを漁る。
いたっ!
私は泣きながら月の星占いの本を抱きしめて、そして、我に帰った。
ああ。
こうして、捨てられない本が溜まってゆく。




