スクエア
月の星占いの本の精は、とても優しげに微笑む。
ブーツと革のパンツに革ジャン。80年代のロックバンドみたいなビジュアルなのに、話し方は物静かで上品だ。
なんとなく、設定の間違いのようにも感じるが、そのギャップに少女時代の懐かしいキャラクターが浮かぶ。あの時代、、バンドものが流行った。そして、大人しいメガネ女子と恋に落ちていた。
いわゆるギャップ萌えという奴なんだろうか。格好が派手でも、学者とか教師とか、そんな職業なんて設定もあった気がする。
このヒト、ベースって感じだな。
ぼんやりと、そんな事を考えた。なんとなく、当時のバンドものはベースに王子キャラの年上の憧れが配置していた気がする。
彼もまた、そんな感じだ。
「では、紙を用意してください。ホロスコープを書いてみましょう。」
本の精は微笑む。が、私の顔は歪んだ。
「ええっ、書くの?めんどくさいなぁ。」
思わず飛び出す文句にも、彼は優しい。さすが、占いの本の精である。
「でも、画像を挿入するのは夢ではありませんでしたよね?今回は、簡単な図形で、人物などとは、ちがいますから下手でも大丈夫なのですよ。」
本の精は先生のような、少し圧の感じる微笑みで攻撃してくる。
「わかったわよ。もう。でも、ホロスコープなんて、必要?」
私の文句を本の精は愛おしそうに笑顔で受ける。
「必要かどうかは、あなたが書く文章で決まるのですよ。どんなに有意義なものでも、使わなければ、ただの不用品になるのは、フリマで経験があるのでは?」
と、本の精に言われてハッとする。
そう、物の価値は本当に変わる。フリマの客の中には、古い木彫りとか、陶器の人形とかを欲しがる人がいた。
家にあると不便なアイテムだけれど、骨董品として凄く高価な物が安価に出回ることがある。他には、壊れた電化製品を欲しがる人もいた。昔、無法地帯のようななんでもフリマがあった頃は、部品の回収のために買う人もいた。
そう、品物も、知識も、価値をつけるのは結局、人なのだ。
「そうね。確かに。」
納得した。すると、本の精は嬉しそうに笑った。
「ええ。私は貴女に定価で買ってもらいました。地元の小さな本屋の隅で買ってくれる人をずっと待っていました。
貴女が、小さな手で私をとってくれた時、まさか、買ってくださるとは思いも寄りませんでした。当時、貴女はまだ、小さな女の子で、私は大人向けの、可愛い挿絵もない文庫本出したから。」
本の精は懐かしそうに言った。
なんとなく、その頃を思い出した。この本は月と星座の人生占いのような内容だったと思う。
「まあ、マセてたから。」
苦笑する。当時、私は小6くらいだろうか、占い師としてなんか女子から人気が出て、色々と知識を入れる必要があったのだ。
「ふふ。可愛かった出すけどね。」
本の精は笑った。そして、ホロスコープについて話始めた。
基本のホロスコープについては、本を持ってる私も基本は知っている。
太陽が一年でめぐる『黄道』に時計の文字盤のように配置してる星座が12星座だ。星占いはその12の星座と惑星の位置を使って未来を予測する占いだ。
「貴女の知っているホロスコープは、円を描いて作られる物だと思いますが、今回は違う図形を使った物を作ってみましょうか。」
本の精は楽しそうに四角形をいくつか重ねて、12の三角を作り出した。
「これは、ガリレオが描いたとネットで話題のホロスコープです。」
14世紀、ホロスコープは占いの道具とは限らなかった。ガリレオをはじめとした理数系の学者、生徒もまた、空を表現するのに使ったらしい。
「四角…なんか、分かりづらいわ。うん、どう理解したらいいのか分からない。」
私はぼやいた。確かに四角い方がノートの整理には良さそうだけれど、これでは理解しづらい。ノストラダムスもこんなホロスコープを書いたのだろうか?




