テンプレ
私がwebで小説を書き始めた頃、ファンタジーは人気ジャンルで近寄りがたい存在だった。
電子書籍を読まない私には、独特の間、というか、文章の空白に慣れずに初め読むのに苦労した。
ファンタジーは人気ジャンルで評価やPVが飛んでいた。
日本語の内容が分かる文章さえ投稿できれば、簡単に3桁はブックマークがつくとか噂があった。そんな噂を読みながら私も人気ジャンルに夢を見た。
そこに行きさえすれば、私も少しは評価してもらえる。そんなゴールドラッシュのような勢いが、夢があった。
でも、いい噂だけではなかった。
人気ジャンルに行けば、感想がつく。そして、様々な批評を読者から受けることになる。それと戦わなければいけない。そう、ネットには書いてあった。怖かった、そして、気をつけようと思った。
そして、そんな噂に翻弄されて、話を盛る楽しさを忘れていた。
陰謀はまずは自分で考えなきゃいけなかったのか。
私は恐ろしい計画を考える事を秘密結社に頼って作品を考えたことに反省した。よく、テンプレ パクリ という言葉を聞いたけれど、自分には関係無いと思っていた。でも、ネットで噂になってるような陰謀を使って皆が作品を作ったらオリジナリティがなくなる。同じことだ。金太郎飴と言われる作品になる。
でも、富士山爆破なんて考えたら悪いとか思って秘密結社にそれを押し付けていた。
でも、それではダメなのだ。特に、名もない底辺が、マリアナ海峡から珊瑚礁のパラダイスのような上位ランキングを目指すなら。その為に、日々、出来るだけ変なコメントとか、行動をしないように心がけているんだ。
小説で悪者を考えたり、自由に創造出来るように。
でも、富士山の爆破は、やめといた方がいい気がする。
大体、富士山を爆破して何が起こるというのだろう?派手とか、キャッチーなだけで扱うと、逆にエタるんだよな、経験上。
私は、諦めてスマホを出す。やはり、本人に真意を聞かないと。
数年前、克也はスマホを持つのをやめた。5Gの何かが克也に危険を感じさせたのだ。が、時が過ぎ、5Gの脅威はスマホの便利さに負けた。
克也は何事もなかったようにスマホを持ち、チャットアプリを華麗に使いこなしている。
時代は変わったんだな。
この数年の色々を考えると、何か、ラノベのオカルトバトルでも経験したような疲労感を感じる。
そして、克也のスマホ環境は知らないうちに攻略してくれた、見ず知らずのヒーロー仮面に想いを馳せる。
ああ、なんか、この感じ。この感じを上手く小説にできたら。もう少し、ああ、味噌カツのコロモあたりまで稼げるのに。
歯痒く感じながら、奴のお気に入りのアプリを起動し書きこむ。
《こんばんは。どうでもいい事だから、暇な時でいいんだけれど教えてくれる?なんで北の国は首都の東京を狙わずに富士山を爆破するの?》
とりあえず入れてみた。ドキドキする。私はあんまりメッセージアプリというものを使うことはない。要件は一気にメール派なのだ。
特にwebで小説を書くようになって長文の癖がついた。
ピロン♪
軽い音と共に克也からの初チャットが飛んでくる(´;ω;`)
悪の組織と戦った、ここ数年の克也との通信手段を確保する私の戦い。結局、剛の訃報を随分と後から葉書で伝えた。
左手の親指と人差し指で作った 半身の三角の真ん中あたりを右手の人差し指で指し示しながら克也は言った。
『悪の組織のこのへんの役職の奴が攻撃して来るんですよ。』
会社に例えるなら、主任か課長クラスだろうか、底辺の親指から少し上のあたりに位置する悪役。微妙な雑感が逆にリアルでいい設定だと奴の話を聞いていた。
そして、悪組織の人間の役職なんてどうやって知るんだろうと考えた。
一次選考を通過するラノベを、名古屋のモーニングと味噌カツと味噌おでんを食べさせてくる作品を考えてるのだ。こっちも真剣だ。
こういう細かいところは、引っかかるとエタるんだ、私の場合。
大体、秘密結社なのに組織の名前なんて、克也に知らせるわけもないし、そんな事をしたら組織から消されてしまうんじゃないだろうか?まあ、こんな間抜けだから、課長止まりなのかもしれないし、逆に克也が有能で組織の存在を暴いて、そこで渋々課長が自己紹介したって設定も可能だ。
『ふっふっふっ。さすがだね、克也くん。君に敬意を称して名乗ろう。私は悪の組織ナニガシの課長 山田!』
山田?山田はないな。この場合…
ピロリン♪
深夜なのに返信が来た( ゜д゜)
《やあ。東京はもはや外人がビルを買い占めて日本人は少ないんだよ。そこには中国のオーナーも多いんだ。東京にミサイルを打ったら、中国政府におこっれるじゃないか!卯月さんもたまにはネットニュースくらいは見た方がいいね。》
ええっネットニュースΣ(゜д゜ll
色々と言いたいことがあったけれど、リアクションボタンを押す。(°_°)
中国に怒られて攻撃やめるって、そんな悪役嫌だな。
ため息が出てくる。
こんなの、書けるわけもない。
こんなの書いたら私が中国人にも怒られる。最近はラノベは世界市場で話を考えないといけない。
それに、なんか実在する政府が最強モードだと、物語がしょぼくなる。やはり、世界のどの国も勝てないような、謎の組織でなくては。
ぼんやりと考える。富士山を攻撃する理由を。
東京は中国人に怒られるなら、富士山は?あれ?
ここに来て、疑問が浮かんだ。そう、富士山、その他、日本の観光地を爆買いする中国の記事をみた気がすることを。
東京がダメなら、富士山だって中国人が怒るに違いない。
もう。
バカばかしくなる。そして、笑いが込み上げた。
近年の外国人の日本の買い占めは問題になっている。でも、
視点を変えると日本を守る味方に印象が変わることに。
やはり私にはまだ、あの、異世界ファンタジーの魔窟は早いのだろう。
それに、とにかく、今書いている話を完結させなきゃいけない。
なんだかんだと言って、完結ボタンの威力は私クラスの作家でも有効だ。
読者が飽きる前に話にオチをつける。それもまた、小銭を儲けるテクニックだ。
「富士山の問題、落ち着きましたか?」
月の本の精霊が優しく聞いてくる。夜もふけて囁く声はサックスのセクシーさが加算される。
「解決はしないけど、放置するわ。どうせ、克也の都市伝説だし。」
私も少し眠くなってきた。そんな話私の横に座りながら、本の精霊は提案する。
「では、私と、星占いについて説明するのはどうでしょう?」
「は?」
「なぜ、驚くのですか?ラノベは突拍子の無い設定と、少し、役に立ちそうな無駄知識。これのバランスです。」
月の星占いの精は長い銀髪をゆっくりと右耳に切っ掛けて少し真面目に言った。