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目から鱗


 深夜の部屋で私はモヤモヤしていた。

キーボードに文字を打ち、そして消す。

富士山爆破 ロケット 北の国…

こんなの、投稿できないわ。


モヤモヤする私の横で、本の妖精がアピールしている。

もちろん、これは私の妄想だ。7年の執筆活動で出来るようになった事の一つである。

 webで小説を書き始めて3年も経つ頃から、もう、自作の書籍化は無理そうだと思い始めた。でも、それでは、モチベーションが下がるので、古本を売る事を考えた。


 私の物語の参考資料。

 私の物語を好きになってくれた人が買ってくれるかもしれない。


 それは、とても素敵な妄想だった。こうして、文章を更新していたら、それを読んでくれる人がいて、そして、ある日、私の寿命が尽きた時、そのメッセージと共にフリマの情報を載せる。

 友達が、私の最期のフリマをしてくれる。私は、1冊、1冊に解説をつけて、1000円で古本を売る。100円の古本を1000円で!!


 これは、『椿姫』という外国の歌劇のパクリのような妄想だ。

椿姫は高級娼婦で、素行は悪く、借金だらけの刹那的な生き方をしていた。

それでも、肺病で亡くなった時、彼女の客が、自分が送ったプレゼントが競売にかけられると、懐かしさと共に去り落としてゆく。


 ろくでなしで、ちゃらんぽらんで、どうしようもなくても、それでも、愛された椿姫。私もあやかりたかった。と、いうか、なんとか更新のモチベーションを上げたかった。

 

 大体、私はフリマ人。不用品を売るのが好きなのだ。

価値が無いと思われる商品に新しい価値を見つける。そして、それを、誰かが共感して買ってくれる。

 私は、そんな売り口上を考えるのが好きなのだ。


 で、気がつくと、古本が喋り出すまでになる。

こうして、キーボードを動かしていると、つまれた本が話し始める。

まあ、人類滅亡とか、富士山爆発とか、そんな話を真面目に聞いてくれるリアルな仲間がいなかったのもあるけれど。


このスキルは、大概は面倒であるが、こういう、少し面倒な話を考える時は、客観的な意見を複数、考えたい時には役に立つ。


 「きっと、克也さんはダニエルを調べていたんですよ!」

と、ダニエル関係の滅亡の本の精が私に耳打ちする。

「なんで?」

とりあえず、聞いてみた。克也は長年、1人で何かを調べている。多分、オカルトっぽい何かだ。よくはわからないが、神社などを巡っているらしいから、日本の話に違いない。

「一般人でダニエル書を知ってるなんて、なかなかいませんからね。きっと、図書館でダニエル書に関係する何かを調べていたから咄嗟に出てきたに違いありません。」

ダニエルの本の精の推理は納得できた。

「でも、富士山をロケット攻撃なんて、そんな少年漫画みたいな事、ダニエル書には書いてないわよ。大体、こんな設定どうするのよ。」

不貞腐れる私に、古株の、そして、初登場の本の精がトランペットのような明るく、陽気な感じで話しかけてきた。

「いいではないですか。少年漫画。」

そういったのは、華やかな月の星占いの本の妖精だ。

彼は、80年代に流行ったタイトな革のパンツで素肌に革ジャンを身につけている。首元のファーが派手で、今見ると少し、当時を思い出して痛く、恥ずかしい、でも、なんだか時めく気がした。

「富士山爆発…こんなバカバカしいこと書いたら、笑われるじゃない。少年漫画じゃないんだから。」

あなたの姿は昭和の少女漫画みたいだけれど。と、星占いの本の精をみた。

少しウエーブのかかった長い銀髪の穏やかな笑顔は、少女時代の憧れを思い出させる。

「そうですか、では、貴女は何を書いているのでしょう?」

耳障りのいい、甘い声でねだるように質問をされると、なんだか困ってしまう。

「なんか、なんだろう?設定ばかり書いてる気がする(T-T)」

落ち着いて思い返すと、ああ、代表作が無いなんて辛い。ただ、未完の設定文ばかりの気がしてきた。

「では、書きたい話はどのジャンルでしょう?」

本の精は優しく聞く。

「それは、一通り書くつもりだけれど、最後はファンタジーを書いてみたいわ。webファンタジー ラノベの。で、評価をもらって、いいねをしてもらうの。」

ああ、そんな時は来るのだろうか。そこに辿り着くまで寿命はもつのだろうか?

「では、質問です。」

星占いの本は長い足を見せつけるように窓辺の板の部分に座って私を見る。

「は?」

「ラノベとは、どのようなものでしょう?」

星占いの本の精は、小学生になぞなぞをかけるように優しく聞いてくる。

で、なんだか、その笑顔が色気があって混乱する。

「ラノベって、主に10代の少年少女の読み物?」

と、素直に答えた私に本の精はクスクスと笑い出す。

「では、少年漫画はどうでしょう?」

「あ!ああ。」


 言いたいことが分かった。そうだ、そうだった。私、変な考察ばっかりやっていて、大事な事を忘れていた。

 そうだった。私、ラノベを書きたいのだから、少年漫画のような表現の方が正解なんだ!


 目から鱗だった。


 ああ。なんか、すごくインテリな人に感想欄で批判される事ばかりを考えていたけれど、そういうの、どうでも良かったんだ。

 ソースはネットで、富士山爆発でも、面白い話を考えるのが先だったんだ。

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