ダニエル
私は数々の滅亡説を聞いてきた。いわば、滅亡グルメである。
その私でも、克也のトンデモ理論は毎回想像もつかない展開に転んでゆく。
8月に6000年に一度の惑星直列がある。
しかし、2月にも直列はあった。まあ、見かけの直列なので、今年は何度かあるんだと思う。
が、この直列は、朝方なので、普通なら見ている暇はないんだけれど、 夏休みなので、うまくするとペルセウス流星群を見ながら、キャンプ場などからビールを片手に眺められる素敵なイベントだ。いや、朝方だから、マフィンとソーセージを焼きながら、ホットコーヒーというところか。
キャンプ場には、天文館が併設されているところも多く、天文館も何かイベントをするに違いない。
あとは、天気さえ良ければ…じゃない、そうじゃない。今は人類の存亡をかけたんだった。
「なんで8月の直列に人類が滅亡するのよ。」
私の質問に克也は静かに首を横に振る。
「人類が滅亡するとは言ってません。富士山が爆発するか、南海地震が来るかもしれないと言ったんだ。」
克也はしれっと太平洋側の住民を敵に回した。
「どういうこと?なんで惑星直列の影響が日本にだけ集中しておこるのよ。」
と、質問しながら面倒臭くもある。どうせ、しょうもない答えだと思っても、聞きたくなるからしょうがない。
「日本だけではないですよ。むしろ、日本は最後の方です。そして、これは人災で8月のある記念日の前だから、あるんです。」
克也はまっすぐに私を見た。本当に信じてるんだ。と、思った。が、克也は移り気なので、明日までその信念が続くとは限らないが。
「8月…山の日?なんで山の日に謎の組織が日本を襲うのよ!」
「山の日じゃ、ありません!」
「じゃ、お盆?お盆にレジャーに出かけた日本人を襲うの?嫌な組織ね…」
と、言いながら、昔の特撮ものを思い出していた。
特撮ヒーローものの悪役は、映画館にお客さんがたくさん来るGW、夏休み、クリスマスなどを狙って攻撃してくる。果たして克也は、どの組織の陰謀を参考にしたんだろう?
なんだか、違う方に期待しながら克也を見た。なにしても、こんな風に考えるのは私には出来ない。
ファンタジーを書こうと決めた時から、私もいろんな異世界での陰謀を考えようとした。が、これが、マジで面倒だった。ゲームをしないから、魔王が出てくるクエストものは書けない、かといって、昭和の少年漫画のような陰謀も難しかった。
大体、街を壊すとか、考えることに抵抗がかかる。
悪の組織の動機も理解できない。だから、物語にならないのだ。
しかし、克也はマジレスした。
「終戦記念日です。他の国では勝戦記念日、と、言ってますが。」
「はぁ?」
間抜けな声が出た。克也は私を見る。
「北のあの国から、ミサイルが飛んで来るんです。それが富士山を直撃すると、その影響で富士山は大噴火を起こします。そして、その影響は太平洋全域に広がるんです。
富士山が噴火目前の状態なのは自分で検索してください。」
克也は最後のツメをネットにある投げしてドヤ顔をしてる。
「北の…あの国って、それ、ラノベで書けないじゃない!」
私は頭に実在する国を思い浮かべて困惑する。ネットで発表できなければ、1円にも、それこそ、1銭にもならないどころか、下手をすれば強制退会させられる。
「大丈夫です!これはダニエル書に書いてある『北の王』のことです。そして、ゴート族が移動してきたように、東の国からローマに民族大移動が始まるんです。そして、ローマは第二の滅亡をします。」
克也は断言する。根拠はない。多分。でも、この人の知識にはいつも感心させられる。
「『北の王』って、黙示録じゃなくて、ダニエル書なんだ。」
色々と小説のために調べたけれど、忘れていたわ。
そっちに気を取られて、呆然とする私を残して克也は立ち上がり、風呂上がりのように缶コーヒーを一気飲みして、爽やかに去っていった。
「じゃ、次、いつ会えるかわかりませんが、8月は山に籠るといいですよ。」
山…北の王と、無職と、熊…どれが私の脅威だろう?
山にキャンプをしながら、熊と戦うビジョンを見た…
いや、その前に、どうして、惑星直列だからって、北の王が富士山を攻撃するんだよぅ!
ティーチ みー why?




