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パレード


 本を借りてエントランスの休憩スペースにゆく。

そこでは克也が私を待っていた。克也はフリマ仲間で、数少ないオカルトを語る仲間でもある。

 克也は私にホットミルクティーのペットボトルをくれた。


 「ありがとう。」

私の挨拶に克也は笑って最近の地方ニュースを語ってくれた。それから、私の休日の不思議な話を聞いてくれた。

「ねえ、剛は結婚したらどんな家庭をもったと思う?」

私は質問した。のんびりと楽しいスローライフの話を聞けるのを期待して。

が、克也は冷たい顔で面倒臭そうに私を見る。

「いや、結婚なんてしませんよ。あの人、そういうの、面倒臭い人でしょ?」

克也の顔にリアルを見た気がした。胸が痛くなるほど、剛の人柄を言い当てているように思えた。

 そして、長い、作家生活で、剛を美化しすぎていた自分を見た気がした。

「そうだよね。でも、せめて、小説では平凡な日常を想像してみたかったのよ。そういう公募がもうすぐあってね、」

そこで言葉が詰まった。これは言い訳だ。私は、まだ、剛が死んだことを上手く処理できずにいるのだ。

 明日はいつでも当たり前にあって、それはある程度、自分でコントロールできるものだと信じていた。

 だから全く会えないまま、ある日突然、剛が消えた事を何処かで受け入れられずにいる。

 それは、小説の未完を抱えたまま、呆然と立ち尽くすような現状を、自分を騙してでもなんとかしたいとする行動に影響をしていた。

 《生きてる?》 返信が遅い時のいつものメールの書き出しだった。

 《生きてるよ》 その短いメールが、奴の最後のメッセージになった。

 言葉で金を稼ごうと、何年も頑張った私の、忘れられない汚点になった。


 生きてる なんて、簡単に使う言葉ではなかったのだ。特に、年配になったら。

 反省も後悔も沢山抱えている。だから、小説だけでもなんとか、いい感じに終わらせたかった。

 嘘でも、夢の世界で、叶わなかった夢を、想いを昇華させたかった。


 「別に、平凡なんて、人それぞれでしょう?世界の不思議を解明する。それが、我々の日常じゃないですか。」

克也に言われてギョッとした。は?我々って、私も?

「そうかな?」

曖昧に答えながら、私は違うと心の中ではキッパリ言ってやる。

「そうですよ。それに、いつもそんな話を皆でしていたし、その時の様子を思い出しても、希和さんは卯月さんの活動を応援してたと思いますよ。だから、その、『法王の夢』も、オカルト的なメッセージだと思います。」

克也はキリッと言った。いや、アンタがいない時はアイドルの話とかビーズの話とかしてるし、剛、男性アイドルも好きだった。

「そうだろうか(T-T)」

「そうですよ。それしか考えられませんよ。最近、ネットで話題の2025年7月滅亡説、見た事ありませんか?

 最後の法王が、今年、しかも、話題の7月を前に亡くなる。こんな偶然、そうありませんよ。」

克也、前のめりである。

「7月、また、滅亡するの?これで何度目よ、今回は、私、そんな記事、読まないわよ。それに、」

ああ、最近は2020年の3月だったか。マヤ暦の計算違いとかで、その日に滅亡するとか噂があった。超新星爆発をベテルギウスがするんだと言われていた。ベテルギウスは現在も爆発する事もなくオリオン座に輝いている。

「いやいやいや、今回は、何か、あるかもしれませんよ。とにかく、避難場所と食料は備蓄しておいた方がいいと思いますよ。」

克也、粘る。

「う、うん。まぁ、夏の為にソーメンは少しづつ貯めてるよ。米、高いし。」

無難に答える。克也はため息をつく。

「何言ってるんですか。今回は、本当に危ないんですよ!東海地震とか、隕石が落ちてくるって言われてるんですよ!!」

克也が叫ぶ。

「…それ、もう、食料備蓄とかしてるレベルでは無いと思うわ。」

私は呆れた。呆れながら、20世紀末の隕石落下の映画を思い出していた。

隕石が落ちる設定は、人類滅亡カテのテンプレ上位に上げられる。

10代の時もも、20代の時も、隕石滅亡のロマンに怖がりながらも酔った。


その日、あなたは誰と過ごしますか?

 

このセリフは世紀末少女の夢を誘った。

「確かに、簡単な事じゃないと思います。もしかしたら、富士山も爆発もあるかもしれません。」

「ば、爆発?噴火じゃなくて?」

少しからかう。が、克也は負けていない。

「そうですね、爆発するかもしれません。それくらいの何かが起こる可能性があるんですよ。」

克也は大真面目に私を見る。

「は、はは。そうなんだ。すごいね。ハルマゲドンがやってくるんだ。でも、富士山の爆発なら、ローマ法王より、日本の神様がなんか発信してくるんじゃないの?」

思わず叫ぶ。でも、それが懐かしかった。克也は、からかう私を困った人を見るように見下した。


 「今回は、本当に大変です。8月にパレードがあるんですよ!」

「は?盆踊りではなく?」

思わず壁の掲示板を探す。外国人が増えたとは思ったけれど、とうとう私の地区も盆踊りが駆逐されてパレードが始まるのか。

そちらの方がショックだった。が、ガッカリばかりもしていられない。

克也はヤレヤレ顔で、少しバカにしたようにため息をついてから、言った。

「惑星直列が8月にあるんです。6000年に一度の。」

「はああああ?」

私は叫んだ。惑星直列って、それなによ!いやいや、惑星直列、何百年に1度とかの珍しい現象でしょ?でも、私、見た、前の惑星直列!エルフでもロリババァでもないけれど!

私、その時、地球に生きてた。

当時、理科の先生が、何百年に一度って言ってたもん!


ボイジャーはスイングバイをしたんだからっ。あの世紀のイベントは、惑星直列あってこそなんだもん!!!

惑星直列はあった。うん、NASAの人も、きっと私に味方してくれる、ハズ。

そんな文句を言う私に、克也は静かに説明する。


「2025年8月。7惑星が片側に集まるんだ。これは地球から見た見かけの惑星直列だけれど、明け方、空に7惑星が集まるその光景を、天文ファンはパレードと呼ぶ。1982年のものとは違うが、占星術的には地球からの見かけの惑星直列の方が意味があると、俺は考えている。」


『7』 予言関係を調べていると、ありがたさが消える、黙示録に登場回数のある数字。

 ああ、なんだか、本当に嫌な予感がする。

 私の完結はどっちだ?

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