桜の散る頃
そうだった。
第266代ローマ法王 フランシスコ猊下が2025年4月21日に永眠された。
桜の散る4月に。
剛と同じ春に…
そういえば、ニュースの速報を見た気がする。
でも、剛の墓参りに行くって晴香と話し合ってすっかり舞い上がってしまった。
仏教と神教を信じる日本人の私にはローマ法王はアメリカのロックスターより遠い存在だ。
それでも、春に逝ってしまったと言う事実が、あんな夢を見せたのだろうか…
フランシスコ法王は、歴代でも特異な状況で選出された法王である。
既にネットの界隈が噂しているけれど、『最後の法王』と噂されていた。
それは、いつの頃からか当たると噂された聖マラキの予言というものが関係していた。
ふと、自作のミステリー考察ものを読み返した。
ファティマの予言については書いていたが、聖マラキの予言については取り上げていない。
これを書けというのだろうか…
私の場合、たまに、未完の登場人物が夢で自分の作品をプレゼンしてくる。
自分の作品を優先しろと、小銭が稼げると騒ぐのだ。
それで、何度、予定が変わった事だろう。
小銭稼ぎの短編、この誘惑に何度となく乗っては失敗し、現在に至るのだ。
今年は騙されない。うん。今年は、恋愛ものに集中する。
どうせ、小銭なんて稼げないし、評価も貰えない。そんな万馬券見たいな夢に騙されない。
2025年、この年に約束した登場人物の青年の願いを叶えないといけないし、
丸2年、設定を書き続けた異世界恋愛ものがなんとか今年の小説フェスに間に合いそうなのだ。
もう、変な未完は作らないんだ。
確かに、悪魔の剛から、法王に変身する設定とか、アストラル界の知識とか、いい感じの出だしには感心するけれど、それがなんだっていうのだろう?
そんなのは、来年書いとけばいいのだ。
今のトレンドは恋愛、異世界恋愛なんだから。
主人公がTSした剛っていうのが気になるけれど、ここまで頑張ってきたんだから、これで行くんだもん。
と、息巻いて、ここでどちらの話にも悪魔の剛が登場することに気がつく。
人間、馬鹿でも、長い年月を何かに向けて頑張れば、集まった知識がなんかいい風に話を作ることがあるんだな、なんて不思議な気持ちになる。
ドイツの学者のケクレさんも、蛇の夢を見てベンゼンの環状構造を思いついたと、授業で聞いたことを思い出した。人間の脳みそは神秘である。
そういえば、今年は巳年。何か因縁が…って、いかん。
剛の命日とローマ法王の崩御が近かったから、こんな罰当たりな事を考えるのだ。
そろそろ、本気で小説を書き始めないと。
私は起き出した。
どちらにしても、素人の底辺作家の活動時間はわずかなのだ。
とにかく、朝ごはんを作り、それから、いろいろとやらなきゃいけない事柄があるのだ。
着替え終わり、本を並べていると、魔術の本の精霊で、私のキャラであるメーザースが本に座りながらヤレヤレ顔をする。
「本当に剛くんが好きなのだな。」
メイザースの言葉にこっちがヤレヤレする。
「違うわよ、いや、好きだけど、人間愛のほうよ。」
「どちらでもいい。貴女は兎角、剛くんを小説に絡めて考えすぎている。」
メイザースの言葉が胸に刺さる。そう、そうよね。私だって、人生、最初で最後の自作の昭和少女小説の主人公は、可愛い女の子がよかったわ。
TSした剛の話なんて書きたくはなかった(T-T)
「認めるわ。でも、仕方ないわ。剛の旅費のために始めた活動なんだもん。」
そう、2025年、予定では大阪経由で名古屋に慰安旅行をする予定だった。
私のとっても久しぶりの旅行の予定だった。だから、何年も前から準備をしていた。
「だと、しても。現在は吾輩を含めて、様々な人物が関わっているのだから、視野を広げなければいけないよ。」
自分の空想のメイザースに説教される。
そういえば、法王のカードの意味に『大人になりなさい』みたいなものがあったのを思い出した。
1人占いで、人間関係の愚痴を占った時、最終結果にこのカードが出て、意味がわからずに随分と探した。
ある日、少女雑誌の占い特集で書いてあった記事にこの言葉を見つけて愕然とした事を思い出した。
『大人になりなさい』
私はまた、1人、暴走をしているのだろうか?
クールダウンする私にメイザースが言った。
「4月の命日は、何も剛くんだけではないよ。例えばヒトラーもその1人だ。」
「アドルフ・ヒトラー…ここにきて物騒な名前を出してきたわね。」
そう言いながら、この話を昔書いていた事を思い出す。
ヒトラーの命日は正確には分かってない。
と、いうより、遺体も現在存在しない。一説によるとソ連軍が見つけて、神格化されないように粉々にして処分したと言われている。
一般的には4月30日 敗戦間近にピストルで自害したと言われている。
「そうか?貴女も随分と関連付けていたではないか。」
「仕方ないでしょ?イタリアのムッソリーニにヒトラーが傾倒していたって、調べると出てくるんだもん。イタリア半島にあるバチカンもナチスとの関係の疑惑に悩まされるし、バチカン市国を承認したのがムッソリーニなんだから、書くしかないわ。」
私は記事を書いていた昔を思い出す。
「では、ヒトラーの誕生日は知ってるね?」
と、聞かれて嫌な予感がする。
「4月20日 牡牛座」
仏頂面になる。この誕生日には私は懐疑的だ。
ネットではヒトラーのホロスコープを検索することができるが、牡牛座の0度なんて出来すぎてるように思えたのだ。
私がヒトラーを牡羊座だと思い込んでいた事もあるけれど、19世紀の出生記録なんて曖昧だと思うからだ。20世紀に生まれた父の世代でも、1ヶ月も後から出生届を出したとかいう話はよく聞いたし、そこまでいかなくとも、7日くらいは当たり前だと話していた。それは西洋でもそれほど変わらないと聞いていた。
なのに、私生児として生まれたヒトラーが時間まで正確に記録があるというのが私には怪しく思えたのだ。
「4月20日。法王が亡くなったのは?」
「4月21日?」
少し不機嫌になる。確かにニヤピンだけれど、だから、どうだというのだろう?
「ねえ、それがどうしたのよ?1日違えば、全く違うわよ?この誤差、私のような底辺作家が扱うと馬鹿にされるだけなんだから。」
少し声が荒くなる。全く、なんだというのだろう?
「わからないかね?もう一度、法王の崩御の記事を読んだみるといい。4月20日という日について。それで分からなければ、吾輩もシャッポを脱ぐとしよう。」
メイザースは穏やかに言った。
私は腹が立ちながらも、何か予感を感じた。
4月20日は復活祭に当たっていた。
復活祭は春分から最初の満月の次の日曜日に指定されていて、毎年、その日付は変わり、1ヶ月近くの誤差がある。
4月20日に復活祭が当たるのも、その翌日に法王が亡くなるのも、奇跡的な確率のような気がした。
おぼろげな記憶から、法王様は春分あたりから体調が戻ってきたという記事が思い浮かぶ。
復活祭。救世主が再び蘇るのを祝う祭り。
春分から復活祭の短い体調の回復。最近の社会情勢の中で何やら奇跡めいた興味が湧いてくる。
 




