冥王の迷宮 43
「つまり…10代の私が適当にお願いしたらアンタがそれに釣られて召喚され、何らかの問題がおこって現在に至る…と、まあ、こういう事ね?」
口に出したら馬鹿馬鹿しい。そして、動かないからとエンターを連打して、コンピュータが問題を解決して動き出した途端、プリンターが狂ったように動き出して止まらなくなったプログラムの授業を思い出した。
機械は忘れたりはしない。エンターを押したら、押した回数、命令を実行する…
あんな大昔の…小娘のちっさな願いを…いまだに叶えようと何かが動いていたなんて!
「なんか、ウイルアム・ジェイコブスの小説『猿の手』を思い出す話ね。」
なんだか、どっと疲れてコンビニにジュースを買いに出た。
オリオン座が美しく輝いている。
ああ…魔術で願いを叶えるって…難しいんだわ…
身の丈に合わないような願いが、何かの拍子で当選すると、その人のスキルによってサポートしてくれるわけね(>_<。)
私は、勉強も出来ないし、コネもないし、普通に生きていたから…
普通だったら、目に見えない何者かが夢を叶えるために奔走してる事も知らずに死んでしまうのだろうけれど…
そんな間抜けな私でも、ミステリー大賞にリベンジ出来る時代になって…なんか、繋がっちゃったわけだ。
多分、そんな設定なんだね(;ω;)
「まさか…ミステリー大賞にリベンジする日が来るなんて…」
コーラのペットボトルをひねり呟いた。
「本当に…あなたとこうして、夜空を見つめるときが来るなんて…」
悪魔大公は私の買ってきたコーヒーを口にする。
「ねえ、儀式の失敗って…やっぱりお母さんが乱入とかして?」
私の母は、私の怪しげな行動によく気がついて止めていた。
「確かに、お母上もなかなか感の強い方ですが…今回は違いますよ。」
悪魔大公は苦笑する。
「そう。」
コーラを飲みながら母を思い出した。あの人が霊感とかがあったとしたら…やはり、あのピラミッドパワーの実験はかなりヤバかったに違いない。
「今回は、本当に…偶然が…必然を呼び寄せた奇跡の瞬間なのですよ。
貴女は強く守られていて、契約前の私には手出しは出来ませんでしたから、山臥さんの器が無ければ、こうして話すことも不可能でしたし、インターネットの時代で無ければ…貴女にライター職は無理ですから。」
悪魔大公は思い出し笑いをする。
「ひどいなぁ…でも、確かに、ね。誤字と脱字と間違いだらけだもん。そんな文章を読んでくれる人がいるのも…ミラクルだわ。」
私は、長くなったweb作家の日々を思い出した。
少し寂しい秋風に、切ない優しさが染みた。
「で、儀式を完成させますか?そうすれば…どんな夢も思うがままですよ。」
悪魔大公は笑いかける。
それには答えずに車に乗るように指図した。
「悪いけれど…もう、あの本は無いし、魔術なんて信じる年ではなくなったのよ。」
私は、悪魔大公がとり憑いた山臥を見つめた。
悪魔大公が言うには、私には、徐霊の能力があり、山臥の体を軽く触るだけで普通の生き霊は払えるのだそうだ。
そこで、山臥は無意識に私にまとわりついていたらしい。
「そうであったとしても…アストラルトリップの題材はいただけませんよ?
マジ、ヤバめな展開ですから、早く続きを書いた方がよろしいですよ。」
悪魔大公は苦笑する。
彼は多分、これから私がする事を理解していた。
「分かった。考えておくわ≪自分の居場所へ帰りなさい!メフィスト≫」
私の言葉に、悪魔大公は少し寂しそうに笑い、頷いた。
それから、私を軽くハグすると、耳元でこう囁いた。
『大国の政治のトップは古希を越えてますからね、次に冥王星が宮を移動する頃は、絶対、世の中変わってますよ。だから、そんなもの、追いかけずに私を追いかけてくださいよ…きっと、味噌カツが食べられますから。』
ふっ…と、抱き締められて意識を失った…
そして、次の瞬間、私は居酒屋で粕漬けをつまむ山臥を見上げていた。




