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冥王の迷宮 35


山臥は狭い助手席を最大限に利用し足を格好よさげに組み、そして、前人未到の一人芝居を始めた。

少し伏し目がちの山臥がふふっ…と、なんか昭和の色男風味に笑い始めた。


『怪人20面相』に使えるよぅ( ´艸`)


目を見開いた。

なんだろう、欲がある時と言うのは恥ずかしさと言うものはぶっ飛んでしまうものなのだろうか…


最近、こんな近くで素人も含めて芝居を見たのって…多分、高校卒業の祝いで連れていって貰った温泉ランドの大衆演芸以来じゃなかったろうか…


それだって、10mは離れていた。

役者の1m範囲で芝居を見られるなんて、体験できる人間がどれだけいるだろう?

確かに山臥は役者と言うよりはホラ吹きのカテゴリだとは思うが、演じている事に変わりはない。

ここは、観察あるのみだ!


吐息をついて心拍数を落ち着けた。

そう、七転八倒のweb作家生活をなんか良い風に終わらせるには江戸川乱歩にかけようと私は考えた。

原作のある作品を再加工する事を二次作といって普通は著作権の関係上使うことは不可能だ。がっ、だがしかし、江戸川乱歩は使えるのだ。


≪だって乱歩作品の著作権は切れていて使っても良いってアノサイトでは確認したんだもん!≫


そう、色々面倒はあるけれど、自作100%で完結作品を目指していると寿命がつきそうな気がしてきたのだ。

来年2025年は明智小五郎デビュー100周年なのだ。

新世紀の明智小五郎を描くとかなんとか言って、なんか良い感じに完結作品を投稿できるに違いないのだ。と、言うか…完結作品で勝負したいのだ。


2025年…それが皆と約束した慰安旅行の予定の年だったのだから。


もう、何だかんだと上品に作ってる場合じゃ無いのだ。

web作家生活7年目、どうにもならない未完を抱えて首が回らない現在、地獄の底辺生活で無い脳ミソをフル回転させて考えついた作戦だった。


私はっ、乱歩先生の二次作で夢を果たすんだもん(>_<。)

その為には、近所のスキャンダルやら存在しない心霊なんかにかまってられないのだ。


今、ここに…私の20面相のモデルがいる。


その事に集中する。

本当は明智小五郎が良いけれど山臥では毒がありすぎる。


なんてアホな事を数分考えた。

山臥は長い足を器用に組み、長い指を見せつけるように手も組んで膝の上に乗せると話始めた。



「本当に…無自覚のドジキャラがウケるのは10代の少女漫画のヒロインまでですよ。」

山臥は私を見てヤレヤレ顔をする。

「同感よ、それで。」

思わず身を乗り出す。イケメンのヤレヤレ顔、その時、手足はどうしているのか、意識が届かないところに集中した。

山臥の下半身は優雅に動かず、肩だけが少し批判的に上下した。

日頃は意識した事がないが、細身に見えて長身の山臥はそれなりに逞しかった。だから、必要以上の動作をしない事で批判的な会話にも上品さが醸されるんだとはじめて知った。


この人…本当にホストとかした事無いんかな?


その洗練された動きと、落ちぶれた感じの服装がミスマッチで頭が混乱する。

私は次の台詞を待った。

ここでイケメンを手中に納めなくては、2025年が…いつものダメダメイヤーで終わってしまう。


約束した…きっと名古屋に行くっって。

剛の体験談で一稼ぎしてモーニングをご馳走してもらうんだって!


剛の魂と私の読者を泣かせて、良い感じに終わらせて童話『星の金貨』の様な人々に労われるエンディングを夢見ている。江戸川乱歩にしがみつくしかないと思った。

明智小五郎のタグをつけて、味噌カツまでたどり着きたいと思った。


モーニングと味噌おでんと味噌カツを食べるために名古屋を目指す…

正気に戻ると、すべての努力が馬鹿馬鹿しくも虚しく感じるが費やした年月がそれを否定する。

『毒を食らわば皿まで』よ。と言うやけっぱちなやる気が空回る。


でも、来年こそ完結で、ドカンと公募に応募して、落選するにしても、読者が泣ける…良い感じの作品を作り上げるのだ。ああ、あげたい!もう、なんでも良いからエンディングに辿り着きたい!!


「全く、貴女は変わらないのですね…。」

しばらくの間があって山臥が呆れたように呟いた。

「ありがとう。よくわからないけど。」

「で、しょうね。」

「酔い覚めた?」

山臥の様子に酔いが覚めたのだと思った。

山臥は私の顔を複雑な顔で見つめて苦笑いし、膝に乗せた自分の手を見つめて言った。


「本当に…貴女は…こんなにシワが出来て老女に成り果てたと言うのに…初めて出会った聖処女(おとめ)のまま…変わらないのですね。」

山臥…


どこから突っ込むべきなのだろうか…

開いた口を塞ぐ事もなく私は山臥を見つめた。

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