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冥王の迷宮 28



ますます面倒くさいことになってきた。

私は、スマホを見ながら顔が渋くなるのをとめられなかった…


冥王星が宮を移動するとき時代が変わる


その言葉が染みてくる…

その後の欧州の…世界の行く末を決める初代ドイツ皇帝が衰えるとき、冥王星が宮を移動し始めていたなんて…


まあ、偶然だよね。


私はサイコロステーキを口にしてしばらく考えていた。

冥王星は約20年、早いと12年位で宮を動く。


楕円軌道の冥王星は、他の惑星のように同じ期間で各星座を渡るわけではないのだ。

だから、他の惑星の様に時計のイメージで歴史の目印には出来ない。

とは言え、20年近く同じ星座の辺りを冥王星は移動するわけだから、まあ、時代だって変わるだろう。

赤ちゃんだって20年あれば成人するんだから。


ただ、この惑星の不気味なところは、そこに積み上げられた人間の歴史に冥王星に関する無意識が関係していない事だ。

例えば、太陽や月なら、空を見上げるたびに積み上げられた伝説がある。

月蝕が有れば、どこかの国の王が死ぬ。

その伝説でどこかの国が動けば、それに関連する国や産業にも影響が生まれる…


が、冥王星は19世紀には知られていない。

ノーマークの惑星なのだ。

ある意味、ユング的人類の共通意識にこの星の影響は無い訳で、それは、とても珍しい状況なんだと思った。


「ステーキ、美味しいかい?」

山臥に声をかけられた。

「うん…不思議な味がする。」

私は苦笑した。

「不思議な味?」

「うん…ちょっと、冥王星の事を考えていたからね。」

言葉を濁しながら短く語る。山臥はそんな私に興味は無いようでゆったりとワインを口にして私を見た。


(゜ロ゜)…


なんか、雰囲気の漂う間のある沈黙…

山臥はまっすぐに、こちらを見つめるから、なんだか恥ずかしくなる。


「何よ…」

と、反射的に非難がましい言葉が口をついて出た。

山臥は、少し困った顔で私を…いや、多分、私の表情に浮かぶ自分を見ていた。

それに気がつくと、なんだかドキドキしてくる…

心にしまった色々をあばかれそうで…


まあ、たいした色々は無いんだけど…掃除してない部屋に急にやってこられたような気恥ずかしさがある。


ここに来て、イケメンと言われる人間が、ただ、生まれつき顔が良いだけではないのに気がついた。

確かに、山臥は整った顔をしている。が、歳もとってるから、色々と難もある。

それでも、彼がまっすぐに私を見つめ、その表情に自分を見ていられるのは、日々のお手入れあってこそ、なんだろう。


「相変わらず、お可愛らしい…」

山臥は酔っ払ってふらふらしながら、背筋を伸ばした。

「アンタ…酔ってるね(-"-;)」

渋い声で私はボヤいた。


そう、山臥はイケメンで愛想の良い奴だけど、酒癖は悪かった…


お可愛らしい…って、どこで覚えてきたんだか…


私は、ローカル満載の昼の再放送ドラマを思い返した。

少し前に、『お可愛らしい』を連発したドラマがあったような気がしたからだ。


「はい。酔ってますよ、貴女に…」


ああ…始まったよ…超進化(ーー;)


山臥は酔うと、言動がおかしくなる。

怒りだしたり、口説いてきたり、泣き出したり…


この癖がなけりゃ、今頃、結婚もして成功できる奴なんだ。


「ありがとう。」

短く返事をしながら山臥を観察した。

さて、本日は何上戸なんだか…


「お礼など…ただ、素直にそう思っただけです。冥王星の話を続けましょう。」

変に話に食いついてくる山臥に不信感が込み上げたが、いつもの事なので聞き流す。

「冥王星…そんなに興味、あるの?」

「基本は、貴女に興味があるわけですが、プルートゥは神話の世界でもマイナー枠ですから、何を聞いても新鮮なのですよ。」

急に気取った話し方をし始めた山臥は両手の肘をテーブルにのせ、組んだ手の上に顔をのせて、ちょっと、気取った風に私を見る。


(//∇//)…これ、少女漫画で見たポーズ!


ああ、思わずスマホを山臥に向けたくなる気持ちを押さえた。

この気持ち…きっと、昭和少女じゃなきゃ分からないわ。


なんと言うか…ありそうで見かけない状況を発見した気持ちなのだ。


例えるなら、昔のギャグ漫画の自転車で片手にそばを積み重ねて出前をする人とか…現在じゃ、多分、違反になると思うから出来ないだろうし、そんな人間を見かけたら驚くじゃない?

そこまでいかなくても、両肘をついて手に顔をのせて微笑むハンサムも、まあ、見られないんだよね。

子供の頃は、大人になってデートをしたら、そんなシュチュエーションに出会うんだと思ったけれど、私は、この年齢まで見ることはなかった…


まあ…確かに、時代も変わって、私も腰のリボンを背中で蝶々結びをするようなミニのワンピースなんて着なかったけれど。


「どうかしましたか?」

心配そうに問いかける山臥に遊び心がうずいた。

「アナタがあまりにも素敵で驚いたのよ。」

と、この短い台詞を言うのにも精神的な付加がかかることに驚いた。

日頃、照れと気安さでアンタ呼びの私が、急にアナタに呼び方を変えるだけで、なんか、水の中を歩くような精神的な付加がかかるのだ。


「素敵なのはロマンス…マイヤーリンク事件…貴女は調べていましたね?」

すっかり人格が変わった山臥に言われて思い出した。

そうだった…この年は、確かに、私の創作活動につかず離れずついてきていた。


ヒトラーの誕生年であり、その前の1888年はゴールデンドーンのロンドン創設やら、切り裂きジャック…

そう言えば、最近、中途半端に止めているホームズの物語にも関係してるんだった…(T-T)

 ジョン・ワトソンの妻、メアリーと彼が出会うのもまた、1888年なのだ。


「そうだったね…1888年辺りはなんか、色々あるんだよ…何があったんだろうね。」

ボヤいた。


確かに、小説を書きはじめて、様々な年表の不思議に遭遇したけれど…

1888年は、とにかく、凄いんだ。


「冥王星が宮を移動したから、じゃ、ありませかね?」

そう言って山臥はクスクスと笑いだした。

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