2話再会
あれから随分と腐れ縁は続いた。が、いまだに奴の本名を知らない。
こんな事を言うと怪しく感じるかもしれないが、ネットと同じで程よい距離感を欲しがる人物もリアルにいるのだ。
飲み屋で知り合うカウンターの知り合いとか…
そんな感じで深く聞くことは無かった。
小さな田舎の事だから、本気を出せば身元は知れるし、
知らない方が良いかもしれない…そんな雰囲気が奴には漂ってもいた。
我々は、フリマイベント後に反省会をし忘年会やら夏のバーベキューで会うだけだから。
しかし、そんな浅い付き合いの中でも、奴からは中ニ病のようなものが滲んでいた。
我々のフリマの会は、多い時は10人。現在は3人で活動していた。
私と中学の同級生の萩原さん。そして、バイト先で知り合った剛と言う男。
克也は、付かず離れず我々と行動を共にした。
ある年の夏の終わり、バーベキューで納会をしていた我々に、克也は連絡先の変更を申し出た。
私たちは携帯電話を取り出した。
が、奴はそんな我々にこう言ったのだ。
「俺の携帯の電池がそろそろ限界を迎える。それを期に携帯を持つのを止めようと思う。
繋がらなくなったら察してくれ。」
(°∇°;)……
ビックリした。が、それは前座でしかなかった。
しつこく住所や家の電話について聞いた私達に、
奴は昭和の特撮ヒーローの特別復活映画のように困り笑いをし…
「駄目だ。それでは君達に迷惑がかかる。俺は…」
と、思い悩んだ奴は、しばらく、薪を見つめながら思案の末に告白した。
「俺は…ある組織に狙われているんだ。君達に迷惑はかけられないよ。」
一瞬、奴の首にヒーローのスカーフがはためいて見えた…
私が女性のメンバー萩原さんと凍りついている間、
同じ中年男性の剛は、焼き肉を一人で食べていた。
そして、「焼きそば…作らないと火が消えるんじゃないかな」と、ボヤいていた。
結局、連絡先はわからなかった。
私は萩原さんとこの超常現象について連日語り合った。
克也は闇の組織の存在をボカしていたが、
隣市の大型スーパーで若い女性と歩いていたと言う目撃談を行き付けの喫茶店のマスターに聞いて、
恋人ができたからだ(-"-;)
と、結論をつけた。
それから、時が過ぎた。
克也は、たまに噂に出てきた。連絡はつかなかったが、車通勤の剛が、たまに奴の車を見かけて話してくれたので心配はしていなかった。
フリマは減り、我々もそれほど会う機会は無くなっていたのもある。
しかし、宇宙人と謎組織を匂わせてまで女の存在を隠そうとした、克也の凄い言い訳の事は、時より私の想像力を刺激する事になった。
子供の頃、私は随分と大人びた考えをしていた。
特撮ヒーローものやら、闇の組織の存在は楽しんでいたが、本気で信じてなかった。
サンタクロースのような幻の存在で、大人になったら口にしては、いけないものだと思っていた。
まさか、良い歳になって、田舎のキャンプ場でそんな話をおっさんの口からリアルに聞くとは思わなかった。
そんな気持ちが、あの…克也との別れのキャンプファイアを胸に焼き付けたのだ。
2019年…東京オリンピックを前に、私達はフリマの会の慰安旅行を計画していた。
旅行代を稼ぐために始めたweb小説はうまく行かなかったが、10万字の物語が書けそうだった。
あの冬。
あの冬は…確かに、景気が良くて、なんか、夢みたいになんでも出来そうな気がしていた。
私の家にはサンタクロースは一度も来たことはない。
でも、その年の12月は違った。
私は図書館のカウンターで音信不通だった奴に再会した。
サンタさんの贈り物だとかファンタジックなワードが心に飛び跳ねる。
何もかも…前向きに良くなるような気がしていた。