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冥王の迷宮 18



懐かしい昭和のアイドルソングを聴いていた。

当時、アイドルソングも少女漫画にも季節感があった。

正月が終われば…クリスマスの次に賑わう乙女のイベント、バレンタインが待ち受けていた。


近年は、昭和のぶっとびエピソードを面白おかしく話すのが流行りのようだが、あんな事がまかりとうっていられたのは、その他大勢が真面目だったからだ。

さすがに、不純異性行為なんて言葉は死語ではあったが、そうそう恋の告白なんてしなかったし、まして、付き合うなんて月に行くほど遠い夢であった。


だから、バレンタインは物凄く騒がしくなる。

チョコの会社が可愛らしい商品を販売し、漫画雑誌が恋心をあおった。


そして、その先にある『卒業』と言うイベントが乙女に恋の特攻を促した。


今、今、告白しなかったら…


いや、中学でもメンツは同じだよ(-_-;)と、言うか、中学校は他小学からの生徒も来るから増えてたよ…

なんて、今なら思うけれど、高校卒業を想定した田舎と都会に別れてしまう恋の話に自分の身を置き、夢に悶えていた…


ドラマも、そんなような話だったし、何しろ、イベントの告白は、1人が告白の宣言をしたら、人気の男子の場合、躊躇していたらライバルにとられちゃうんだから焦るのだ。

ついでに、ほぼ、皆がフラれるのが分かるから、お祭り騒ぎが出来る安心感があったんだと思う。


ラブレターを書いてみたい。恋の告白を体験したい…でも、ちょっぴり怖い気もする…


そんな気持ちにバレンタインはベストマッチしたのだった。


私もバレンタインのチョコには憧れた。

ガラスの靴とか、西洋風のアンティークな箱とか…

とにかく、乙女心を刺激するデザインの商品が飾られていたから。


ただ、それを見ながら、

こんなの…男子は貰って嬉しいのかな?


と、疑問も浮かんではいたけれど。



が、その年のバレンタインは、少女漫画を片手に恋の夢を見ている場合では無くなったのだ。


『恋のアストロジー入門』

この本のお陰で、私は占星術の占い師の役をやらされる事になったからだ。


1月に買って、2月のバレンタインと時期が悪かったのもあるけれど、なんか、しらないクラスの女子まで私に占いを求めた。


いや、私は、ただ、自分の本を調べて読んだだけだった。


○○座の彼と○○座のあなたの運命を、本に書いてある通りに読んだだけだった。


でも、皆、嬉しそうにそれを聞いて去って行き、更なる恋の乙女をつれてくる。


ここに来て、私もある事に気がついた。


相談者の殆どは、イケ男君狙いじゃね?


青ざめる…

だって、30人近く聞きに来た女子、全滅か、良くて29人はフラれるビジョンがノストラダムスじゃなくても見えた。


マズイ…これ、皆、気がついてるのだろうか?


ドキドキしてきた。


この手の占い本は、基本、良いことしか書いてない。そして、金星の軌道を計算できなくても、12しかない星座の相性なんて、1つの星座に10人いたら、9人はやはり、ふられちゃう!

この本…ダメじゃん…


私は、自分が知らずに切れかけの吊り橋を渡っている事に気がついた。


彼と目があったら、可愛く笑いかけて!きっと、彼はうれしいと思うハズ(はーと)



ハズ(はーと)じゃないよ(T-T)


私、何も考えないで10人に同じ文章を読んで聞かせたよ…


そこはかと…恐怖が込み上げてきた。


バレンタイン…その日、私、ボコボコにされるぅ(>_<。)


占星術のからくりに気がついて、私はすっかりロマンス気分が抜けた。


そんな私と裏腹に、私の周りには人が集まった。

私にではなく、『恋のアストロジー入門』の美しい恋の夢に…


私は、小賢しい子供だった。だから、12星座の占いの欠点にすぐに気がついた。が、『恋のアストロジー入門』の真の価値を理解はしていなかった。


私は何度も言った。

「こんな占い、当たるかどうか分からないよ?良かったら本、貸すけど?」


でも、皆、私の口から結果を聞きたがった。

そして、私は、インチキ占いの恐怖に突き上げられながら必死で様々な裏技を考えた。


ついでに、占いの信憑性を必死で調べた。

占いを読む代わりに両親の血液型と生年月日を聞いた。

結婚して、なんか、幸せに暮らしてるなら、相性は良いに違いない。

そんな2人の星座の関係性を調べたのだ。


そして、男子を含めたクラスメートと別のクラスの親の相性を占い、まんざら間違いでもない事を確認した。

ついでに、『うまく行く』『相手はあなたが好き』のような言葉をうまくぼかした。

『恋のアストロジー入門』では、彼はあなたが好きなはずだから笑いかけて!だの、ウインクしてみて!だのととんでもないアドバイスが書いてあったけれど、あの頃は、恥ずかしがり屋が多かったから、それくらい刺激的に書いても問題はおこらなかったんだと、今では思う。

 そして、それくらいの攻めた事を書いてある方が妄想できてよかったんだと今は思う。


しかし、当時の私にはそんな余裕はなかった。チョコをあげると言う行為の良し悪しに焦点をあて、性格判断の説明を重点にした。


そして、バレンタイン当日。

私は、袋叩きにあわないかを心配しながら暗いバレンタインを迎える事になった。


怖かった、でも、私は、私なりに星占いを調べ、全くインチキじゃない事を調べた。

出来るかぎり、考えて話した。

夢を壊さず、なんか良い感じに…


あとは、運命を受け入れるしかない。


そう、思った。

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