冥王の迷宮 17
ま、寝るか…
布団を敷く。
考えるのをやめる。
考えれば…この歳まで夢を見られたんだから良いじゃないか…
とも、考えられる。
それに、私の作品なんて…そんなに気にされてないし…まあ、考えてもどうなる訳じゃないもんな。
ふと、剛の決め台詞
『だって、仕方ないでしょ?』
を思い出して苦笑した。
生前はよく、それで喧嘩もしたけれど、まあ、その通り、仕方ないのだ。
小説は…まあ、何とかしよう。出来なかった時は…私が剛の代わりに、口を尖らせて読者にこう言うのだ。
「だって、しょうがないでしょ?学者のオジサンが天王星ってつけたなんて知らなかったんだもん!」
嫌だなぁ…(--;)
嫌だけど、まあ、考えないでおこう。
とにかく、こんな時はコーヒーにちょっぴりウイスキーを垂らして、少し温まって寝るに限るのだ。
明日は休みだし、皆、出掛けちゃったし、だから、ゆっくりふて寝しておこう。
そんな事を考え、そして、本棚を見た。
この本も、そろそろ処分を考えないといけない。
そう思って見ている本に、一際、キラキラと輝く本を見つけた。
『恋のアストロジー入門』
はぁぁ…っ(///∇///)
こ、これは、12才の正月に、お年玉で買った…私の星占いの入門書、『恋のアストロジー入門』じゃないのっ。
嬉しくなった。
ああ、人生の荒波で様々に手放していった。本の中で、これだけは大切にとっておいた、私の少女時代の夢のタリズマン…
本を開くと、華やかな薔薇やマーガレットに囲まれて恋を夢見る乙女と素敵な星座たち。
古代ギリシアの衣装を纏った昭和アイドル風味の美少年…
『彼はイチコロ』
『あなたの魅力にもう夢中』
等の昭和恋ワードにきゅんきゅんする。
ちなみに、『彼のハートをわしづかみ』は、平成ワードだと私は考えている。
ああっ…
インチキと言われようと、バカと言われようと…
この本を開く瞬間のときめきを消し去ることなんて、出来はしないんだわ。
胸が温かくなり、12才の恋する準乙女の私達の夢を思い出した。
今では、小学生が彼氏を持つ時代らしいけれど、私の時代は男女は明確に別れていた。
『赤毛のアン』がギルバートの隣に座らされた屈辱は理解できなくても、男子と手を繋いだり、2人っきりで話すのは、さすがに躊躇した。
そして、男子に文句を言う乙女の鉄壁な要塞の壁が少しずつ、崩れかけてくる年頃だった。
いつもは掃除をサボってイタズラばかりの男子が、ある日、重いものを代わりに持ってくれたり、いじめられてる所をかばってくれたり、球技大会でカッコいいプレイを目の当たりにする…
と言う、今では、どうでも良い様な日常に恋のキューピッドが隠れていて、特に、運動会のリレー等では、女子の心に恋の弾丸をガドリングガンで無差別に打ち込みまくっていた。
そして、意識し始めた女子は、私にその、恋と言う名の秘宝をコッソリと見せて、『恋のアストロジー入門』のページを開くようにお願いするのだった。
これはフィクションです。
昭和には確かに、××入門 ××百科などと言う題名の本が流行りましたが『恋のアストロジー入門』と言う本は私の創作です。




