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10話予兆3

そう、アヴィニオンの大学を中退してから少しの間、ノストラダムスの消息は不明になる。


本当かどうかは知らないがノストラダムス関連本を読んだ私の知識ではそうだった。


だから、そこからの数年は適当な話を作っても問題は無いはずだった。


1話完結の小さな物語を考えていた。


ミシェルの父さんは商人だ。

16世紀…大航海時代の商人。

ミシェルは、母親と祖父の屋敷で暮らしていた。

子供の頃、読んだ本には、祖父のユダヤの血族に伝わる…なんかチートな知識を伝授するためにそうした、とか書かれていた…気がする。


ここで、ミシェルは、カバラの神秘や医術、占星術…ついでに日本語まで(しかも標準語で)取得する。



いやぁ…さすがにそれはないわぁ…


と、考えた。

それで、父親が子供を預ける理由を考えた。


出稼ぎ…


そう、旅にいってる事にしたら、すんなりと話が続くじゃないか!


世は、まさに大航海時代だったのだ。

1517年にはエルナンデスがマヤを発見している。


西洋では、黄金伝説ブームだったに違いないのだ。

どちらにしても、ミシェルのとーちゃんの話なんて、史実に無いだろうし、私の読んだ本には『商人』としか書いてなかった。


どうせ、初めての連載だし、まっ、いいか


と、空想で話をつくる。

大切なのは史実でもノストラダムスでもない。


ツヨシの間抜けなエピソードが輝く舞台なのだから。


ツヨシは、今はどうあれ、先祖は偉い人だったらしい。

『奥さま』とか『旦那様』とか呼ばれていたらしいから、世が世なら、ツヨシだって『お坊っちゃま』と呼ばれていたかもしれない。


血筋なら、ノストラダムスにひけをとらない…かもしれない。

うん、そうだ、そう言うことにしておこう。



ツヨシの学生時代…

流行りはフォークだった。


「だって、かっこいいでしょ?アコースティックギター。


アコースティックって、電気を使わない楽器の事なんだよ。」

と、自慢げに語るツヨシを思い出す。


アコースティック…こんなものの意味なんて、知って何の特になるのかと思ったが、まさか、小説としてカネになる可能性があるなんて

いっすん先は分からない。すごい時代に生きてるわぁ…


私は、新しい世界、新しい文化にワクワクしながら物語を考えた。


そして、90年代のディスコミュージックに今でも執着しているツヨシが、エレキギターを選ばなかったのはなぜなのか?不思議にも思った。




私は、今から500年前のアヴィニオンの酒屋に、吟遊詩人に憧れて、リュートを買ったノストラダムスを作り出した。

ツヨシをモデルに作り出された私のミシェルは勉強なんてしてなかった。


当時、次男の貴族などは、騎士で吟遊詩人として旅をしていたと聞いたことがあった。


少し前まで教皇庁がおかれていたアヴィニオンは、巡礼者も多く、その中には旅のイケメン吟遊詩人も沢山来たろうし、ミシェルも憧れたに違いない。


ミュージシャンのテツヤを語るツヨシを思い出す。


「やっぱ、テツヤさんはカッコいいよね?

今は、あまり聞かないけど、活動を始めたら、また、流行ると思うんだ。」


ツヨシは、テツヤの話をするときは、やけに自信に満ちていた。



いつになく饒舌なツヨシをのせて、私のミシェルも小太りの体にリュートを大切に抱えて、酒場でそれを見せびらかしていた。


「いいでしょ…これ、買っちゃったんだ!」


嬉しそうにスマホを見せびらかしながら、えびす顔をするツヨシの笑顔を思い出した。


あいつは、新し物好きで、仲間内で一番にスマホに買い換えた。


後先考えずに、つい、衝動買いをするツヨシの浅はかな性格を受け継いだミシェルもまた、なにも考えずに学費で送られたカネで、リュートを買った。



学生たちは、そのリュートを珍しそうに見つめて、曲を弾いてほしいとツヨシに懇願する。

が、ツヨシは、それをはにかみながら断り、ひきたそうに見つめる学友に屈託なく貸すのだ。

「よかったら、ひいてみる?」


それは楽しい時間だった…


外は雨が激しくなってきたが、店の中は熱気と客の笑顔と歌声で輝いていた。


激しくドアが開かれて一人のおお男が登場するまでは。


「ミシェル!ミシェル・ノートルダム!!どこにいる?」


激しい怒声にミシェルは、椅子から転げて豚のように四つ足で逃げようと試みた。


が、二本足のおお男に襟首を捕まれ、ひっくり返されて怒鳴られる。


ミシェルは、断末魔の豚の悲鳴のように高く切ない声で男に言った。


「ぱ…パパン……」


そう、この人こそジョーム・ノートルダム。

ミシェルの父親だ。


長い航海から帰り、学校から、学費の督促状を受け取り、ミシェルを探していたのだ。



ミシェルの悪事は、その場の皆に知られることになり、ジョームは、そこでミシェルに判決を告げる。


「お前には失望した。2度と援助はしない。」


ジョームは低い声でそう言って、地獄に戻る悪魔のように颯爽とミシェルを振り向くこともなく去って行く。


ひっぱたかれて放心していたミシェルは、我にかえってそれを追う。


父親は馬車に乗り、ミシェルを見ることなく走り去る。


ミシェルは、本当に、これで終わりだと悟り、我を忘れて雨の中、馬車を追うが転んでしまう。


ぱ…パパーン………



雨に沈むミシェル……



こうして、ノストラダムスは放浪の旅へと出掛けることになるのだ。





「なんなの…その話。」

私の話を聞いてツヨシは、眉を潜めた。

「それ…面白いの?」

ツヨシの畳み掛けるような問いに、当時は不敵な笑いで返答した私。


「面白いわよ。ここから、ミシェルの冒険が始まるんだ。アンタの面白エピソードを振り撒きながら。


それに…ノストラダムス、本当に、学費の未払いがあったみたいだから。」


今となっては…その未払いの話すら、本当か、創作なのかはわからないが、このとき考えたノストラダムスの冒険は楽しかった。

間抜けで善良なノストラダムスに、狡猾で、イケメンのイタリア人をつけようと思っていた。


フランソワ1世の統治の時代、イタリアは神聖ローマ皇帝とフランス王に狙われ、東欧もトルコの驚異に怯えていた。


そのイタリア人も名前を隠す必要があった。

だから、ミシェルの名前をかり、

ミシェルに従者の役をするように言いくるめた。


“お父さんに知られないように。”



この言葉に騙されるまま、ミシェルはローマに向かうはずだった……


評価がよければ……


が、評価の前に、私は、衝撃の事実を知ることになる。


ジョーム・ノートルダム。


ミシェルのお父さんは、海の男でもなければ、アヴィニオンから出ても居なかった。



じゃあ、なんで奥さんは実家にくらしてるのよぅぅ…



1話を投稿してしまっていた。


だから、混乱した。

ジョームについてなんて、考えたことはなかった。

ついでに、ミシェルの母方のジーさんは、ミシェルの誕生時期に亡くなってる可能性まで飛びだしてきた。

いきなりのピンチ。

混乱。参考資料が参考にならない腹立たしさ。


そんな私は古本屋で衝撃の出会いをした。


三島健『預言者』50版。

頭魚足人の合成写真が掲載された初期の本である。

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