番外 教えておくれよブラバッキー7
山臥香織
コイツもフリマのメンバーだった。
主に剛の友人である。
「やあ、偶然だね。」
山臥は良く通る美声でイケメン男優のような笑顔で私をみた。瞬間、私は周りを見て、山臥を急かしながら図書館を出る。
全く、コイツと図書館で話していたら怒られちゃう。
それから、エントランスの休憩スペースのソファに山臥を座らせて、デジャブにおそわれながらコーヒーを買った。
「はい、久しぶりね。」
私がコーヒーを渡すと、山臥はお礼のウインクを投げる。
この時点で、私が山臥にコーヒーをおごる必要が無いことに気がついたが、まあ、いい。
面白ネタの1つもくれたら。
私は自分のコーヒーを開けて飲む。
「コーヒーありがとう。君からの奢りだと思うと、コーヒーが一段と香り高く感じるよ。」
と、イケメンスマイルをする山臥に、なんか物凄く負けた感を感じる。
「缶、開けなきゃ、香りなんて飛ばないよ。」
コーヒーの香りより、こっちはアンタの胡散臭さをいっぱい感じるわ。
が、山臥はそんな事は気にしていない。
20世紀には、キラースマイルだったろう笑顔で、なんか、キザにコーヒー缶を開けて飲む。
それがいい感じにさまになる。足が長いのがやはり座った時の格好良さに華を添える。
なんか…やっぱり凄いよな…
私は山臥を見つめて思った。
小説なんて書かなきゃ、どうでもいい人の缶コーヒーの飲み方も、今では気になって仕方ない。
こう見えて、私は、最終的に少女小説を書きたいのだ。
少女時代に読んだような夢溢れる昭和少女小説の新作を。
活動7年、人を感動させる物語は、多分、書けない気がする。
でも、自分が感動する作品は…書けるんじゃないかって思う。
少女時代に戻って…夢見たような王子さまを…もう一度、私の意識の異世界から召喚できるに違いないと。
でも、王子さまを書くのは難しい。
そして、気がついた。王子様は小さな所作も王子様なんだと。
少女小説の王子を描くには、缶コーヒーを飲む姿もイケメンで無ければいけないと言うことを!
が、そんなイケメン知らないから、旨く書けないのだ。
山臥は、怪しい奴だが、なんか、イケメン臭がする。香りではなく臭いである。
本当のイケメンって感じからはずれているが、大衆受けする色男なのだ。
「どうしたの?そんなに見つめて?」
そのイケマンスマイルで山臥は私に問いかける。
えっ(///ー///;)
しまった!と、焦りながら、それでも山臥を観察してしまう。
≪どうしたの?そんなに見つめて≫
なんて、知り合いのオバサンにガン見されて自然に出てくる台詞ではない。
この時、しっかりと缶コーヒーをテーブルに置き、こちらを正面から見つめる…
絵になる所作を自然にやらかす山臥を、小説を書いている私が、目を離すなんてできるはずもない。
「ごめん。なんか、小説に行き詰まってね。」
私は苦笑した。
山臥は含みのある微笑を返す。
「ああ、君、webで小説を書いていたんだよね?」
と、思い出してくれる山臥が凄いと思う。普通、そんな他人のどうでもいい事忘れてしまう。
そんな山臥に、これから宇宙人やオカルトで騙されて先が書けないとボヤいたら、どんなリアクションをくれるのかを想像した。
イケメン風味に慰めてくれるなら…
駅前の喫茶店のスペシャルパフェをご馳走してもいい気持ちになってきた。




