1922年12
「え、江戸前乱歩が書いたとしても…未完の『悪霊』は最低評価だと思うわ。謎の解けないミステリーなんて、意味がないのよっ。」
私は叫んだ。
そう、終わらない物語なんて、誰が書いても駄作なのよ。
私の決め台詞は…ベルフェゴールを笑わせた。
「乱歩!カテ違いじゃない。向こうは推理小説。あなたは神秘小説。宇宙人が見つからなくても皆、何十年も稼いでいるじゃないの。」
ベルフェゴールの笑い声が腹に響く。
「推理小説…だと思ってたよ…なんとなく。」
私はため息をついた。
ああ、確かに、はじめは推理サスペンスで始めていた。
でも…思えば途中でロボまで登場するんだった(T-T)
「ああ、どうか、泣かないで…悲しみは、この私の胸に預けてください。」
あ、( ̄▽ ̄;)
突然、メフィストが目の前で何やら演じはじめてギョッとした。
「か、悲しんではない、よ。」
声が震える…あの胸に不平不満を預けたら、いくらの利息をぼったくられるだろう?
不安に思う私の手を…メフィストが…イケメンのメフィストが、宝石でも扱うように大切に取り扱ってる!
怖い…
絶句、こんな時に使うんだと思う。
こんなにテンションも見かけも違う…もしかしたら、私も少しは可愛く改変してもらってるかもしれないが…
それにしても、凄みのある美しい男が目の前で自分の手を大切に扱うのは、混乱する。
「本当でしょうか…こんなに、寒さで凍える小鳥のように貴女の手が震えているのに。」
メフィスト…さすが、シェークスピアに愛された悪魔だけある。
小鳥…私の手が…小鳥…良くもそんな歯の浮く台詞が思い付くものだ。
バシッ。
驚く私は目の前に振りかざされた扇の音にビックリした。
ベルフェゴールが、メフィストの手首を打ったのだ。
「穢らわしい手で触れないで!私がいつ、カウンターを出てよいといいましたか?」
キリリと、叫ぶベルフェゴール。メフィストはそれを黙って受けて、謝る。
暗い雰囲気の中、私はどうしていいか分からなくなる。
「ねえ…、さすがに叩くのは良くないよ…今はコンプライアンスも大変らしいし。」
少し落ち着いた頃に発言してみた。
もう、メフィストはカウンターに戻り、何やらカクテルを作り始める。
「コンプライアンス?コンプライアンスって何かしら?」
ベルフェゴールに睨まれて仕方なく検索する。
「うーんとね、なんか、企業とかが、法律を守る事…らしい。」
小声で答えると、ベルフェゴールは私をはじめ、睨み付けてから笑いはじめた。
「法律?わたくしは地獄の王、つまり、わたくしこそが法律よ。そうですね?」
キッ、と睨まれてメフィストは柔らかく微笑みをかえす。
「勿論です。お嬢様。」
メフィストは優雅に右手を左胸に当てて会釈をする。
「そうかもしれないけどさぁ…私が小説にするとなると…まあ、色々、面倒だし。」
ボヤいてみる。ベルフェゴールは私を見て困り顔で笑ってくれた。
「そうでしたね。小説、成功させないといけませんもの。」
今度はベルフェゴールが、私の手を握る。
「いや…小説は私が書くから、その、気にしなくていいよ。」
私はボヤいた。すると、ベルフェゴールは私の手を強く握る。
「気にしますわ!気にしますとも。気に入ってますもの。貴女の作品。応援しますわ。」
なんか、すごいテンションで推してくれるのが、怖い。
「ど、どうしたの?」
混乱する。なんでベルフェゴールが、私を気に入ってるのか。
「だって、貴女の思う私の姿、とても可愛らしくて素敵なんですもの。
こうして、100年は暮らしたいくらいですわ。」
「ここから100年は…私、生きてないよ。」ため息がでる。「何、話してたんだっけ?」
疲れて聞くと、ベルフェゴールは楽しそうに笑った。
「ツタンカーメンが発掘された、話ですわ。」




