1922年7
ベルフェゴールが、素足にクリスタルのサンダルを合わせるのを見ながら、私はピオ11世について考えた。
ここに来て、いい感じにバチカンの千年王国の崩壊…なんて凄い偶然を見つけてため息が出る。
もう、いい加減、終わらせたいのに…
終わらないわ(>_<。)
私はモヤモヤしてるけど、それ以上にピオ11世は、悩んだに違いない。
カール大帝と約束を交わしてから千年の時を経て、今、まさに、バチカンの行く末がピオ11世にのしかかってきたのだから。
交渉相手は、ムッソリーニか、イタリア国王か…
しかし、イタリア国王とは絶縁状態。
ムッソリーニは社会主義者。
どちらも、面倒な交渉事だ。
しかし、ピオ11世は、おおよそバッドエンドの回避を選択したのだと思う。
法王はムッソリーニとの交渉を選んだ。
これにより、バチカンはカトリックの領土から、独立国になる。
1926年バチカン市国の誕生である。
「バチカン市国の説明なんて、必要?」
私の話を聞き終わると、ベルフェゴールは、可愛くあくびをする。
「あるわよ。ここで、独立出来なかったら、バチカンもイタリア王国共々、連合国の管理下におかれたかもしれないじゃない。」
私は戦後のドイツや日本を思い出していた。
仮に、バチカンがイタリア王国の、法王の領土として存在していたら?
GHQはどうしただろう?
私の話をベルフェゴールは、鼻で笑う。
「馬鹿馬鹿しい!奴等がムザムザとGHQに降伏すると思う?
イタリア王国なんて関係ないって、また、引きこもるわよ。
何しろ、税金払いたくないって、国王と喧嘩する位なんだから。」
ベルフェゴールの言う通りだ。
ローマ皇帝は、イタリア王国と仲が悪かった。
1861年…サヴォイヤ家がイタリア半島を統一を目指し、その領地をほぼ手中に入れた。イタリア王国の成立である。
でも、バチカンは、イタリア王国に従って併合はされなかった。
イタリア国王は言った。
『その土地を占有したければ、32万リラを払え』
で、法王はそれを突っぱねた。
バチカンの収入源は…よくわからないけど、世界中からの信者の寄付。
それを、いち国王に払うと言うのが受け入れられなかったのだろう。
それ以来、ほぼ領地に法王は引きこもる。
そして、時代が過ぎて行く…
ピオ11世は、この状態の解決を…これからのバチカンの行く末をかけてムッソリーニと対峙する事になる。
「そうね…でも、第二次世界大戦の戦後処理は…ローマ法王の力を持っても、今までのようにはいかなかったと思うわ。」
そう、千年の年月を…ローマ法王と共に歩んだ、神聖ローマ皇帝は消えた。
そして、皇帝の領土は…ドイツは…
オーストリアは…
ナチスドイツに陥落させられていた。
ロシアはソ連と名を変え、宗教を否定した。
戦勝国と呼ばれた国々は、確かに、キリスト教徒が沢山いた。
が、プロテスタントが中心だった。
ローマ法王を…バチカンの運営方法を否定した、ルターから始まった新しい宗派の人達なのだ。




