1922年 4
ムッソリーニひきいるファシスト党にソ連の新たな書記長スターリン。
暴動の絶えない不安定なドイツ帝国には、ムッソリーニを兄貴とばかりに尊敬し、胎動を始めるヒトラー。
そして、ムッソリーニこそ、その後のイタリアをバチカンを戦禍へ誘う男。
ピオ11世。結構、大変なときに法王に選ばれてしまったものである。
「でもさぁ、ローマ法王って、終身職でさ、頑張って高齢をとってからのご褒美みたいな仕事だと思ってたのに…」
私は、20世紀のローマ法王のドラマチックな背景に深いため息が出た。
「そうでしょ?法王になれば『天国の鍵を』手に出来るのだから。」
ベルフェゴールは、ホホッと優雅に笑い、私はここで、彼女の髪型が変わったことに気がついた。
「か、髪型変えた?」
私は美しい銀髪の頭頂部モリモリのポンパドールヘアーに結ったベルフェゴールの髪をため息をついて見た。
「ええ。ロココの香りが致しますでしょ?」
ベルフェゴールは、軽く扇を閉めて口元だけを隠して頬を赤く染める。
可愛いけど…あざといなぁ…
私は数秒、みとれてため息と共に気持ちを切り替えた。
「うん、素敵。でも、話を戻すわ。」
私はもう一度、ため息をついて、ファティマの聖母に大変になると予言された法王に就任したピオ11世を思い出した。
1922年アキッレ・ラッティという名から、法王としてピオ11世を名乗ることになる人物に思いを馳せる。
私には、それはファティマの予言の始まりの分岐に見えた。
が、ピオ11世には、それは終わりの分岐に思えたかもしれない。
バチカンの歴史は9世紀に遡る。
北からやって来たフランク人の王カールをローマ皇帝と認めた800年12月のクリスマスの日から。
彼は蟹座の超新星爆発のように人類史上類のない功績を残した。
ヨーロッパの統一である。
それに伴い、時の法王レオ3世はカールをローマ皇帝と認めることになる。
それは、混乱するヨーロッパの状況下でカールから武力的な庇護を受ける事でもあった。
ヨーロッパは統一を果たそうとしていたが、ローマ帝国は東と西に分かれ、この出来事は、ヨーロッパのキリスト教徒をも、大枠で二つに分裂させることになる。
西は、武器を持ち共に戦う僧、カトリックに
東は、戦いは専門職に任せ、積極的に戦わない僧、東方教会に。
それから、20世紀のピオ11世の時代まで、聖ぺトロの眠る、この土地はローマ法王の宮殿であり、聖地として受け継がれてきたのだ。
それから1000年と200年時の法王が繋いできた神の帝国は、この新しい法王と共に窮地にあった。
イタリア国王とは絶縁状態。
神を否定する共産主義の台頭。
新政権のファシズムとムッソリーニ。
聖母の予言がなくても…
緊迫した状態なのである。




