1922年 2
穏やかな昼下がり…
ベルフェゴールは、なぜかご機嫌などや顔で、豪華なお茶をご馳走してくれる。
そして、メフィストはパシリに徹していた。
「なにか、浮かない顔ね?ローストビーフ、持ってこさせようか?」
ベルフェゴールは、心配そうにわたしを覗き見る。
「はっ?ローストビーフって…」
「あら、メフィストが貴女はローストビーフを見ると幸せになるっていったわよ?」
ベルフェゴールは、不思議そうに私を見る。
私はメフィストを睨む。
確かに、ローストビーフは好きだけどさぁ…
文句を言いたくもあるが、なんか、今のメフィストに話しかけるのは気が引ける。
なんと言うか…私の作ったメフィストより、数段、高貴で近寄りがたい、そんな美しさがある。
「ローストビーフがあっても…ファティマの秘密を何とかしないと、気持ちなんて上がらないわよっ。
なんなのよ、ファティマの聖母…(-_-;)」
私は絶句する。
1960年についで、1922年!
こんなに、法王の就任に合わせて、世界が動くの?
そう、ローマ法王は、基本、終身職。
命がつきるまで、法王としての職を全うする。
つまり、ローマ法王が時勢に合わせて交代するわけではない。
自然にそれがシンクロしてる…と、言うことだ。
「何って、数あるカトリックのドヤリネタの1つじゃない。
モーゼの海割りに比べたら、大したことはないわ。」
モーゼって…
はるか古代のSFXネタに顔がひきつる。
そうだった…キリスト教の二千年の歴史から言えば、ファティマの聖母なんて、大したことないのかもしれない。
「モーゼはいいわ。モーゼはさぁ。ファティマの予言だけでお腹いっぱいよ。」
私は頭を抱える。
「ふふっ、お腹はすぐにすくわよ。メフィストが特製のローストビーフサンドを持ってきたから。」
ベルフェゴールの予言通り、メフィストはとても上品な…言い換えれば一口サイズの少し物足りない量の旨そうなローストビーフをさりげなくテーブルに置いた。
「こんな予言なら大歓迎だけどね。」
私は悔しいけど、ローストビーフサンドにかぶりつく。旨い!
なんか、細長い餌に群がる動画の猫のように、夢中になるうまさだ。
「ふふっ。本当にローストビーフで笑顔になるのね。」
ベルフェゴールは、楽しそうに扇を口元で遊ばせてわたしを観察する。
恥ずかしいけど、もう、どうでもいい気もしてくる。
そして、腹が満たされると少し、落ち着いてものを考えられる気がしてきた。
「もう、なんとでも言って…でも、考え方をかえると…ファティマの予言…今までの法王さまがなんとか延長してきたのかもしれないわね…」
考えれば、モーゼの時も、ノアの洪水、ソドムとゴモラも…やると言ったら容赦がない。
ファティマの聖母の予言だって、100年間、のほほんと時が流れたわけでは無かったのだ。
そして、いい感じに時代の分岐で就任する法王には、信者と世界の平和ものしかかっていたんだと思う。
ファティマの聖母に脅されて、スターリンとムッソリーニに対峙する…
ピオ11世
思ったより大変な時代を生きた法王様である。
これだけでも大変なのに、2年前に国家社会主義ドイツ労働者党と改名した組織の中心人物達がこれに加わってくる。
悔い改めさせろって言われても…
無理ゲーって言葉は、まさに、こんな時に使われるんじゃないだろうか?
でも、ここでぶん投げずに、なんとか尽力して行く…
ローマ法王というのは、思ったより凄い人のような気がしてきた。




